【韓国紙】企業が検察出身者招聘に出た理由 捜査活発化に備え布石

韓国の尹錫悦次期大統領18日、ソウル(EPA時事)

韓国紙セゲイルボ

大統領選挙が終わった後、財界の内外では特定企業の名前が載ったリストが出回った。「新政府がS、Hグループにまずメスを入れる」という内容だった。誰が作成したのか分からないが、具体的な理由まで書かれ、もっともらしかった。該当する企業は、「事実でないと承知している」としつつも、「率直に言って気になる」という反応だ。歴代政府でいくつかの大企業が集中的にターゲットになった黒歴史が繰り返されるのではないかという心配が根強いことが根底にある。

実際、文在寅(ムンジェイン)政権で大企業は“積弊清算”の対象にされた。サムスングループは検察4件、警察2件、国税庁2件、金融委1件など、合計10件の調査を受けた。まだ進行中だ。ロッテグループは公正取引委員会など11件、SKグループは8件、現代自動車グループは5件の調査を受けた。

だからだろうか。最近目立つ企業の動きがある。尹錫悦(ユンソンニョル)次期大統領と縁のある検事出身の弁護士を迎え入れるために先を争っているのだ。尹政権の発足後に、企業の捜査が活発になることに備えた布石だ。

企業であれ個人であれ功罪があるものだ。違法事項が明らかになれば法的手続きに従って処罰を受けるのは当然だ。ただし、政権の初期や政権の立場が動揺する時に、財閥の“埃を暴きだす”捜査で大型不正捜査の政局を誘導するスタイルは後進的だ。相変わらず財閥への反発情緒がある韓国社会で“大企業にメスを入れる”ことは人民裁判のようになるのが常だ。

新政権が発足もしないうちに、検察は手を付けていなかった産業通商資源部(部は省に相当)の脱原発政策関連の人事圧力疑惑、(サムスングループが傘下の団体給食事業などを営む)サムスンウェルストーリーを不当支援した疑惑の捜査のスピードを上げている。今から次期大統領コードに合わせたものではないのかという解釈が出ている。

尹氏は今月21日、経済6団体の長と弁当昼食会を行い、「企業を経営しやすい環境」を作ると約束した。民間主導の成長、市場の力を前面に出す尹氏にとって財界は“二人三脚”のパートナーと同じだ。呼吸を合わせて一緒に進むことが重要だ。米中対立が激しくなり、経済安保という言葉が出るほど政府と企業が呼吸を合わせなければならない対象はますます拡大している。最近のウクライナ事態でグローバル供給網の不安が拡大するなど、国内外の環境は容易でない。

新政府が企業を経営しやすい環境を作る方法は簡単だ。不確実性をなくすことだ。それでこそ企業が大統領府(青瓦台)や政府の顔色を窺(うかが)わずに長短期投資計画をたてて実行に移すことができる。政権交代期に飛び交う出所の分からない“処分対象リスト”のようなものは消えなければならない。文在寅政府との差別化はそこから始まらなければならない。

(キム・キファン産業部長、3月30日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

“みせしめ企業”と辞め検弁護士

「政権交代で大統領府、閣僚、委員会・審議会の長からはじまって約3000のポストが入れ替わる」

東京に駐在する韓国外交官の言葉だ。首相どころか外相にすら会えずに交代になるであろう駐日大使の話をしていた時だった。だから、韓国の官僚は大統領選に血眼になる。政権が代われば我が身の生活が一変するからだ。

その中で、「財界も新大統領の哲学を探って、コードを合わせて来る」と外交官氏は言った。役人だけの話ではないのだ。確かに過去、全斗煥(チョンドファン)政権によって解体された国際グループのように、政権に潰(つぶ)された財閥があった。財界人とて、新政権の目がどこへ向いているのか、その重点政策は何か、真剣に探らなければ、企業の生き死にに関わる。

尹錫悦氏は検事総長出身だ。検察は文在寅政権によって「血の粛清」を受けた。尹人脈の検事が多数左遷されたり、検察を去って民間に出た。そのいわゆる「辞め検」弁護士を企業が顧問弁護士や社外取締役などで抱えようという動きが出てきているという。露骨な話なのだが、財閥としては生き残りのためには当然の対策だ。

韓国は学閥、門閥、地縁が日本よりも濃厚だ。尹氏との近さで人材の“等級”が変わってくる。文政権で泥水を飲まされた企業は、攻守所を変えて、新政権で有利な地歩を固めようと人材漁りに躍起なのだ。

一方、新政権が誕生しても当面はねじれ国会で自分の政策を通しにくい。だが、力を示しておかなければならず、そのためには“みせしめ”が必要だ。そこで、旧政権でいい思いをした企業を血祭りにあげる。出回っているリストに挙げられた企業は気が気でない。政治家出身でない尹氏はこれまでの政治的しがらみがない分、大ナタを振るえる。しかも法に従って。「叩(たた)いて埃の出ない企業はない」から、身をすくめている企業は多いだろう。

選挙のたびに繰り返される交代劇。これではノーサイドになるのは難しいようだ。

(岩崎 哲)