強硬な北と対峙 有事に大量報復も辞さず

韓国の選択 次期大統領・尹錫悦氏(4)

北朝鮮の軍事パレードで披露された大陸間弾道ミサイル(ICBM)=2020年10月、平壌(AFP時事)
北朝鮮の軍事パレードで披露された大陸間弾道ミサイル(ICBM)=2020年10月、平壌(AFP時事)

北朝鮮の対韓国宣伝ウェブサイト「わが民族同士」は先週、韓国大統領選後、初めて尹錫悦氏と保守系最大野党「国民の力」を批判する論評を掲載した。

論評は、尹氏が候補者討論会などで北朝鮮への先制攻撃の必要性を説いたことと関連、「われわれへの体質的拒否感と対決心は昔も今も変わっていない」と指摘。国民の力についても「権力野望と同族対決に狂奔して朝鮮半島の平和と安定、南朝鮮(韓国)人民の命などは全く眼中にない逆賊の輩(やから)こそ、南朝鮮人民の恥であり、全民族の憂い」と非難した。

いつもながらに罵詈(ばり)雑言を並べた、尹氏への“ごあいさつ”だ。

北朝鮮にとって韓国政権は「保守であれ革新であれ打倒対象であり、米帝国主義の植民地から解放させるため、政権基盤を揺さぶってくる」(柳東烈・元韓国警察庁治安問題研究所研究官)。文政権下で突如、融和ムードになったのは見せ掛け戦術にすぎない。

駐英北朝鮮公使出身の太永浩・国民の力議員も「北朝鮮は尹新政権の政策の輪郭が分かるまで揺さぶりをかけ、挑発の回数とレベルを上げてくるだろう」と指摘する。

太議員は選挙期間中、尹氏と何度か直(じか)に面談した経験から、その対北路線について「北朝鮮をなだめたり、対話のための対話を呼び掛けることはせず、挑発が終わるのを見極めるだろう」と推測する。

北朝鮮は24日、平壌郊外から大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられる飛翔体を通常より角度をつけて高く打ち上げるロフテッド軌道で発射。北海道沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したとみられている。日米韓当局が警戒していた「世界最大級の新型ICBM」だった可能性がある。

北朝鮮は今年に入り、極超音速ミサイルやロシア製「イスカンデル」の改良型など、高速や変則軌道で飛ぶミサイルの発射実験を繰り返している。韓国は改めて防衛網の強化が急がれているが、尹氏はこの事態に「韓国型3軸体系」の構築を繰り返し訴えた。

3軸体系とは、北朝鮮のミサイル発射の兆候を探知して先制攻撃するキル・チェーン、発射後に落下してくるミサイルを上空で高度別に迎撃する韓国型ミサイル防衛システム、そして攻撃を受けた後に圧倒的な報復措置として地上発射型や特殊工作員潜入などで相手を膺懲(ようちょう)する3段階を指す。

韓国型3軸体系の事実上の提唱者で、李明博政権で国防計画の立案を担当した金泰宇・元統一研究院長はこう語る。

「先制攻撃も迎撃も口で言うのは簡単だが、技術的には極めて困難。技術が確保され、費用も安く、報復という意味で政治的にも正当性が保たれる最終段階の膺懲こそ最も現実的だ」

金氏の説得で、それまでの2軸体系から3軸体系になったのが朴槿恵政権時の2016年。ところが、朴氏は弾劾・罷免となり、対北融和の文政権下で3軸体系は禁句のようになってしまった。尹新政権には当然、「3軸体系復元の期待がかけられている」(金氏)。

北朝鮮の金正恩総書記は、核兵器を国外移転したウクライナがロシアの侵攻を許した事態を見て、「非核化でなく核保有を選んだ自分の判断は正しかったと自信を深めているはず」(安保問題専門家)だ。尹氏にはそうした北と対峙(たいじ)し、非核化に向かわせる厳しい覚悟が求められる。

(ソウル・上田勇実)