韓国・文大統領の5年 「積弊まみれ」厳しい評価

反日を国内政治に利用
露と消えた南北平和定着

韓国の文在寅大統領は今春、5年の任期満了を迎え退任するが、韓国国内では厳しい評価も少なくない。特に「積弊清算」を口実に2人の大統領経験者をはじめ保守派に司法処罰が下されるよう仕向けた一方、自ら権力型不正に関わった疑惑など数多くの積弊を生み出したという批判が目立つ。反日路線や過度な対北融和など外交面でも汚点を残し、退任後は責任問題まで浮上しそうだ。(ソウル・上田勇実)

政権交代に恐れ抱く

2012年、韓国南東部の釜山。当時、記者はそこで同年4月の総選挙に出馬した文氏を取材したことがある。選挙区に構えた事務所近くで会った文氏は終始にこやかで、朴訥(ぼくとつ)とした慶尚道なまりが印象的だった。そばを通り掛かった若い女性に握手を求められると、うれしそうに応じていた。

ソウルの青瓦台で演説を行う韓国の文在寅大統領=1月3日(EPA時事)

文氏はその3年前、大統領秘書室長などとして最も近くで支えた盧武鉉元大統領が巨額収賄容疑の捜査を受けていた最中に自殺したことなどを機に、政界入りを決意したと言われる。自身の出身地とはいえ、「保守の牙城」と言われる釜山から出馬した文氏の姿は、密かに捲土重来(けんどちょうらい)を誓っているようでもあった。

総選挙で当選し、国会議員になった文氏はそれから5年後の17年、任期途中に国政介入事件で弾劾・罷免された朴槿恵大統領と朴氏を支えた保守陣営に「積弊」というレッテルを貼り、その「清算」を掲げて2度目の挑戦で大統領選に勝った。当選後、文氏は確かに「自分を支持しなかった人たちも国民として奉仕する」と語り、保革統合の必要性を訴えていた。

ところが、就任後の態度はその真逆だった。朴前大統領のみならず、「盧元大統領を死に追いやった張本人」と見なす李明博元大統領も収賄疑惑で起訴され、重刑の有罪判決で収監された。保守派の要人が次々に容疑を掛けられ司法の裁きを受けたり、社会生活で深刻な不利益を被った。その数は「朝鮮王朝時代に起きた最大の粛清事件『甲子士禍』の犠牲者239人に匹敵する」(韓国メディア)という。

「積弊清算」という名の下に堂々と行われた政治報復だった。

文氏に近い曺国元法相の家族をめぐる各種不正や文氏の友人を当選させようとした蔚山市長選挙への介入など、文氏の周辺では相次ぐ権力型不正疑惑も明るみになった。しかも政権への捜査の手を緩めさせる無理な検察人事や捜査・起訴権を意のままに牛耳る独立機関までつくった。

最近、文氏退任を前に識者からは「文政権は積弊そのものだった」「朴前政権と比べようもないほど数多くの積弊にまみれた」という厳しい評価が聞かれる。

外交では、周辺国との関係を悪化させた。日本との間では、慰安婦合意や元徴用工訴訟への対応などで戦後最悪とまで言われる事態となったが、最後まで「被害者中心主義」を盾に「責任は日本にある」という国内世論を醸成し、自ら改善させる努力を怠った。文氏が個人的に反日主義者であるというより、反日路線を前面に出すことで国内保守派を「親日派=積弊」と見なす政争に利用した側面が強いが、日本側は文氏への信頼を失った。

文氏は今月、任期5年を振り返る書面インタビューで、北朝鮮の金正恩総書記との首脳会談や仲介役を買って出た米朝首脳会談を「戦争の危機を克服し、平和に向かう道を模索した」として「最もやりがいを感じた」と回想した。

だが、北朝鮮の融和姿勢は制裁解除を引き出すためのポーズにすぎず、核・ミサイル開発はむしろエスカレート。南北平和定着というレガシー(政治的遺産)づくりも露と消えた。行き過ぎた対北融和と中国への低姿勢で、米国との同盟関係は揺らいだ。

文政権は先日、政権交代を掲げて来月の大統領選に出馬した保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦候補が、当選したら「文政権の積弊を捜査する」と発言したことに色をなして反発し、謝罪を求めた。積弊清算の怖さを一番よく知る文氏が見せた、あまりにも正直な反応だったと言えよう。