【韓国紙】大統領選 今からでもビジョン対決を

韓国紙セゲイルボ

時代精神読む候補が勝者

与党「共に民主党」大統領候補の李在明氏(時事)

3月9日の第20代大統領選挙は“歴代級”だ。肯定的な意味ではない。人々は「こういう大統領選挙は初めて」だという。ある世論調査の専門家は「かつてなく勝敗の予測が難しい」と語った。既存の選挙の公式が当てはまらないからだ。

選挙情勢は2回の大きな変曲点を経ている。最初は11月5日に党大統領候補選出後、リードしていた最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユンソンニョル)候補を与党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)候補が追い抜いた時だ。李候補の当選可能性が50%を超えた。しかし、すぐ2番目の変化が起きた。1月6日、党の内紛を収拾した尹候補がわずか10日余りで誤差範囲内の接戦に情勢をまた逆転させた。

大統領直選制になってから7回の選挙のうち、投票100日前の世論調査で1位の候補が6回勝利している。しかし今回は、同じような期間に1位と2位が2度も入れ替わった。情勢の予測が難しいという言葉を実感する。

今度の大統領選挙の最大の特徴はやはり、歴代最大の泥沼選挙だ。2番目は前例のない陣営対決だ。逆説的だが文在寅(ムンジェイン)大統領の任期末の支持率40%がこれを傍証している。40%なら成功した大統領で、与党・民主党の選挙の展望は明るいはずだ。しかし現実は違う。政権交代の世論が政権「再創出」より高い。与党支持者と反対側に立つ人々は共に微動だにしない。李、尹両候補とも一定の悪材料にもかかわらず支持率が暴落しないのはこのためだ。

野党「国民の力」大統領候補の尹錫悦氏(EPA時事)

3番目は文字通りのポーラーコースター選挙だ。これはローラーコースター(ジェットコースター)と世論調査を意味するポール(poll)の合成語で、ばらつきのある世論調査の結果を当てこする用語だ。23日公表の世論調査でも李候補が誤差範囲内で優勢とするものと尹候補が10ポイントリードという真逆の結果が出た。

最後は2030(20代30代=若年層)の浮上だ。かつてなく選挙に及ぼす影響が大きい。支持と撤回の転換が速く、そのたびに情勢が動揺する。勝敗の予測はさらに難しい。

時代精神の喪失を憂慮する声が多い。歴代級の泥沼選挙で未来を語る建設的な論議が割り込む余地がないということだ。しかしこうした乱れた大統領選挙も時代精神が込められなければならない現象の一部だ。泥沼のように複雑で乱れた現実の中でも、国家と国民の底辺に潜む時代精神を読んで、ビジョンを提示する候補が本当の政治指導者だ。まだ大統領選挙は40日余り残っている。

(イ・ウスン政治部長、1月27日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
ポイント解説

かつてない大統領選挙

「かつてない大統領選挙だ」との声を聞く。直選制となったのは1987年、軍服を脱いで政党人となっていた盧泰愚(ノテウ)氏が当選した時からで、それ以降、歴代の大統領選を取材してきたが、投票が迫ってなお安定して首位を走る候補がおらず、ころころ入れ替わるのも初めてだし、醜聞暴きやネガティブキャンペーンばかりで、まともな政策論争が行われないのも初めてだ。

これまでの選挙は日頃から大統領候補と目され、それなりの政治経歴を積んで、予想された、準備ができた人物が選挙に立ってきた。ところが、今回の候補者選定では、与党は党幹部が手を挙げたものの、国会議員ではない地方自治体の長が選ばれ、野党側は政治家でもなく、それまで政権側にいた人物が急浮上して担ぎ上げられた。これらのことも異例と言えば異例である。

また、記事が指摘しているように、国民の間で政権交代を望む声が多いにもかかわらず、現職大統領の支持率が40%を維持しているというのも“謎”である。普通に考えれば、支持されている大統領の政党から出る候補者が絶対有利だが、大統領人気と与党候補支持率が連動しない。よほど候補者自身に問題があるとしか考えようがないだろう。

首位が頻繁に入れ替わる理由として“揺れ動く”若年層を挙げている。そもそも彼らの支持がくるくると変わるから、それにつられて各陣営は振り回され、右往左往しているという。ならば彼らに刺さる政策を打ち出せばいいものだが、それができていない。若年層の課題と言えば、進学、就職、軍隊、結婚、不動産に集約される。韓国そのものの問題点であり、文政権が失敗してきた政策である。その解決策を提示できず、相手攻撃に明け暮れていて、だから若年層を取り込めずにいる。

「時代精神の喪失」は最初から文政権に期待できなかった課題だ。現在の候補者たちにはなおさら期待できないものだろう。このドタバタ選の結果はどうなるのか、それで誕生する新政権は、と考えると、隣国ながら心配になる。
(岩崎 哲)