対米改善見通せず
韓国新大統領の出方注視
北朝鮮は国際社会による制裁や新型コロナウイルス禍に伴う国境封鎖が続く中、新年を迎えた。国内経済を抜本的に立て直す材料は見当たらず、金正恩総書記は今年も国政運営の舵(かじ)取りに苦労しそうだ。
(ソウル・上田勇実)
容易でない国境封鎖解除
韓国貿易協会によると、北朝鮮と中国の貿易額は昨年1月から10月までの間で前年同期比57・4%減少の227億ドルにとどまった。これはコロナ・パンデミック前年の19年や、本格的制裁が科せられる直前の16年と比較すると1割にも満たない水準だ。
コロナ禍1年目だった20年の同期貿易額も前年比76%減だったが、昨年の数値はそれよりさらに落ち込んだ。中国依存度が突出して高かった北朝鮮経済が2年連続で深刻な打撃を受けていることを物語るものだ。
だが、今のところそうした経済難が体制不安につながる兆候は確認されていない。近年、金正恩総書記は住民に「自力更生」を盛んに訴え、内部引き締めで正面突破を図る構えだ。
これまでにも北朝鮮は、90年代半ばに300万人ともいわれる餓死者を出した、いわゆる「苦難の行軍」などを潜り抜けてきた。国際環境が悪化し、孤立することを何度も経験してきたことで、一種の耐性を身に付けたとみられる。中国との貿易が激減しても「乗り切れる」と考えたとしても不思議はない。
党機関紙「労働新聞」は、昨年末に開かれた党中央委員会総会の詳報を伝えたが、注目された核・ミサイル開発や米国との交渉などへの言及は一切なく、対外政策については「多事多変な国際政治情勢と周辺環境に対処し、北南(北朝鮮と韓国)関係と対外事業で堅持すべき原則的問題と一連の戦術的方向が示された」という記述しかなった。例年の新年辞などに比べ異例の少なさだ。
これをめぐり専門家からは「対外政策は管理モードに入る可能性が高い」との見方が出ている。
実際、来月開催の北京冬季五輪や3月の韓国大統領選、さらには11月の米国中間選挙など関係周辺国で重要なイベントや選挙があり、北朝鮮が自国ペースで米国や韓国を巻き込むには限界がある。
北京オリパラが終わる3月半ばまでは、大型の軍事的挑発による揺さぶりは控えざるを得ないとの観測が広がっている。南北関係は政権交代の可能性も念頭に入れ、新大統領が決まる3月以降にその対北政策をある程度見極め、仕切り直す可能性が高い。
そして最も重視する米国との交渉の行方も不透明だ。バイデン政権の北朝鮮問題に対する優先度は高くなく、トランプ前政権との差別化から中間選挙前に北朝鮮と交渉し実績を上げようとする可能性も低い。関係改善は見通せないのが現状だ。
制裁とコロナ禍が長期化する中、北朝鮮が経済立て直しのため「国境封鎖の緩和と中国との貿易再開に向かおうとしているのは明らか」(韓国政府系シンクタンク)だ。だが、正恩氏自身、党中央委総会で「非常防疫を最優先の国家事業とし、どんなに些細な緩みや油断、手抜きもなく展開すべき最重大事」と指摘した手前もある。オミクロン株流行などでコロナ収束には程遠く、実行に移すのは容易でない。
日本との関係では、岸田文雄内閣でも最優先課題と位置付けられた拉致問題の行方が焦点になる。しかし、水面下の接触は試みられても解決の糸口を見いだすまでには至っていない。
この約1年半の間に家族会代表を務めた横田めぐみさんの父、滋さん、田口八重子さんの兄、飯塚繁雄さんが相次いで他界するなど、一刻の猶予も許されない現実が重くのしかかっている。