
ハンガリーで4月12日、国民議会(一院制、定数199)選挙が実施されるが、オルバン首相率いる与党「フィデス」は対立候補のペーテル・マジャル氏(44)が率いる中道右派政党「尊重と自由党(ティサ)」にリードを許している。オルバン政権は16年間、連立を組むキリスト教民主国民党(KDNP)と共に3分の2の議席を握り、絶対的権力を享受してきたが、ティサの躍進に苦戦を強いられている。(ウィーン小川 敏)
オルバン氏は若いころ、改革派の代表として活躍し、1998年に欧州最年少の35歳で首相に就任、2002年まで政権を担った。10年に再び首相に就任して今日まで16年間の長期政権を維持してきた。
中東・北アフリカから100万人以上の移民が欧州に殺到した15年以降、オルバン氏はいち早く「ゼロ移民」を掲げ、厳格な移民政策を実施。22年2月末のロシアのウクライナ侵攻以後、欧州連合(EU)の対ロシア制裁を繰り返し阻止し、ウクライナ支援には否定的で、ロシアから安価な原油や天然ガスを輸入してきた。
「ハンガリーのトランプ」と呼ばれ、トランプ米大統領とは懇意な間柄だ。トランプ氏のフロリダ州の自宅「マールアラーゴ」に招かれ、ロシアのプーチン大統領とはクレムリンで何度も首脳会談をするなど、友好関係を築いてきた。米露首脳と関係を維持している欧州の政治家は、オルバン首相以外にいない。
「EUの異端児」と呼ばれるが、「私はハンガリーの首相だ。国益を最優先するのは当然だ」と反論、「ハンガリー・ファースト」を掲げて邁進(まいしん)してきた。欧州の政治学者はオルバン氏の政治を「オルバン主義」と命名し、欧州政界の保守化の旗振り役としてきた。実際、スロバキア(フィツォ首相)やチェコ(バビシュ首相)など欧州ではオルバン旋風に乗って選挙のたびに右派民族派政党が躍進。欧州議会では右派系政党の政治会派「欧州のための愛国者(PfE)」を設立させるなど、オルバン主義は欧州の政界では歴然とした影響力を誇る。
ところがフィデスは、4月12日の議会選を前にティサに先行を許している。それも8~10ポイントと大差がついている。ハンガリーは巨額の財政赤字に苦しんでいる。「法の支配」の違反により、EUからの数十億ドル規模の援助金はストップされている。物価上昇率は昨年4・4%と他のEU加盟国と比べて高止まりで、国民の間で不満がくすぶっている。
長期政権が続くと、政権内でさまざまな汚職やスキャンダルが出てくるものだ。オルバン政権も例外ではない。昨年12月中旬、矯正施設における多数の児童虐待事件が明るみになり、関係者の隠蔽(いんぺい)疑惑が浮上した。児童の権利を擁護してきたオルバン政権下のスキャンダルに約5万人の国民が街頭に繰り出し、オルバン氏の辞任を求めるデモを行った。
オルバン氏は選挙集会で「ハンガリーがウクライナ紛争に巻き込まれないようにフィデスに投票すべきだ」と主張し、「国民は平和と安定の道を選ぶか、それとも行き詰まりに陥っているEUの道を選ぶか、選択を迫られている」と呼び掛けている。
マジャル氏はかつてフィデスに所属していたが、2年前に同党と袂(たもと)を分かった。24年6月の欧州議会選挙でティサは30%を得票し、フィデスの対抗政党として党勢を強めてきた。マジャル氏は親EU路線、ウクライナ支援を明確にし、オルバン政権との違いをアピールしている。
オルバン氏への救いの手は米国からきた。欧州歴訪中のルビオ米国務長官は16日、ブダペストを訪問し、オルバン氏との記者会見の場で、「トランプ米大統領はオルバン首相を支持している」と語った。気を良くしたオルバン氏は「米国とハンガリーは黄金時代を迎えた」と豪語した。
総選挙でオルバン政権が敗北した場合、その影響はハンガリーだけではなく、欧州全土にも波及することが予想される。欧州政界の保守化の立役者オルバン首相は現在、政権存続の危機に直面している。






