トップ国際欧州英スターマー政権のジレンマ(下) 大学・技術、強化される対中防衛線

英スターマー政権のジレンマ(下) 大学・技術、強化される対中防衛線

 スターマー英政権は中国の巨大大使館の新設を承認する一方で、中国による影響力浸透に対する防衛強化を並行して進めている。大学の中国資金への依存により学問の自由侵害が深刻化する中、政府はスパイ防止策を急ピッチで整備している。

 中国政府の教育機関「孔子学院」は英国に約30カ所(ロンドン大学、マンチェスター大学など)に設置され、世界最多級だが、「中国共産党のプロパガンダ機関」として厳しく監視されている。スナク前政権(2022~24年)で全廃が検討されたが、「即時閉鎖は非現実的」と判断された。スターマー首相もリスクを認めつつ、「監視下での存続」を選択した。

 英ガーディアン紙の調査によると、主要大学は過去数年間、中国から約2億8100万ポンド(約600億円)の資金を受け取り、台湾・チベット・香港・ウイグル関連の議論中止や講師制限といった自己検閲が報告されている。

 技術面では、人工知能(AI)、量子コンピューティング、極超音速ミサイル、合成生物学など、最先端技術の軍事転用リスクが最大の懸念。「学術技術承認スキーム(ATAS)」を強化し、外務省による中国留学生への厳格審査を義務付けている。

 23年、下院情報安全保障委員会報告書は、英学術界への「長期的・組織的な浸透」への無防備さを指摘し、抜本対策を求めた。これを受け政府は、①国家安全保障法(23年成立)の運用強化(外国政府指示下のスパイ活動を即訴追可能とする)②高等教育(学問の自由)法の検討③研究安全保障諮問局(RSAS)の設立(情報局保安部=MI5=と連携し大学向けにスパイ対策を助言)④国家安全保障・投資法による中国企業の大学発スタートアップ企業買収阻止―に取り組む。これらはスパイ防止法の現代化、大学への直接介入の2段構えを特徴とする。

 軍事技術では、次期戦闘機(GCAP)の保護が焦点だ。英国、日本、イタリアが共同開発を進めている。情報機関は中国が日本を「脆弱(ぜいじゃく)な環」と見て、技術盗取を警戒、英国は日本政府に精査を求めている。

 大使館承認は経済対話の象徴だが、その一方で技術・学術防衛の壁を高め、中国の影響力に対抗する「二枚舌」政策が鮮明でもある。英国は安全保障と実利のバランスを模索し続けている。(ウィーン小川 敏)

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