トップ国際欧州【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (11)英議会で中国スパイに警鐘

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (11)英議会で中国スパイに警鐘

中国の習近平国家主席=14日、北京(AFP時事)

 英国ではロシアの元スパイが毒殺されたリトビネンコ事件(2006年)、未遂に終わったスクリパリ氏毒殺未遂事件(18年)など、ロシア関連のスパイ事件が世相を賑(にぎ)わしてきたが、最近は中国がこれに取って代わっている。

 英情報局保安部(MI5)は18日、中国の諜報(ちょうほう)機関である中国国家安全部(MSS)の関係者とされる中国人女性2人を名指しし、ビジネス向けSNS「リンクトイン」を通じて英議会議員らを対象に大規模な採用活動を行っていると警告した。これを受け、ジャービス安保担当閣外相は下院で「(中国が)議会や政府の機密情報に通じる人々を集めようとしている」と訴えた。在英中国大使館の報道官は「悪意ある中傷だ」と強く否定したが、MI5の中国諜報機関と工作員を名指しした警告は、中国の活動を野放しにできない厳しい状況認識を示している。

 英国では中国のためにスパイ行為をしたとされる英国人の議会研究員ら2人が23年3月に逮捕され、24年4月に「公務秘密法違反(OSA1911)」で起訴されたが、今年9月、検察側が起訴を取り下げた。この事件は英議会研究員と経済学教師の2人が、21年12月から23年2月の間に収集した情報を中国に提供したスパイ活動の容疑で逮捕されたものだ。「敵に有用」な情報を流すことを禁じている公務員秘密法に違反した容疑だった。

 一方、同法の「敵」について別の裁判の判決が法解釈上の問題を引き起こした。ロシアのためにスパイ活動を行っていたブルガリア国籍の6人に対するスパイ事件で有罪判決が出たが、この判決文で公務秘密法の「敵」について、「犯罪行為の時点で、英国の国家安全保障に対する脅威となっている国」と定義した。

 この判決から検察は2人の「犯罪行為の時点」となる21~23年に中国が「英国の国家安全保障に対する脅威」となる「敵」である証拠を得られなかったとして、全ての訴追を取り下げた。この証拠を巡りパーキンソン検察局長は、検察庁が「何カ月もかけて」政府に求めたが、起訴基準を満たさなかったと労働党政権に不満を述べた。MI5のマッカラム長官は「失望」を表明し、「中国は英国の国家安全保障に対する日常的脅威だ」と強く批判した。

 一方、「中国政府系ハッカー集団」として国際的に認識されている「APT31」による英選挙管理委員会への干渉行為が確認されている。APT31は長年、政府・議会・研究機関・企業を標的に政策だけでなく防衛技術、学術技術、ハイテク技術をパスワードの窃取、マルウエアなどで盗み出していた。

 英国の国家機密漏洩(ろうえい)対策は1911年に制定され、1989年まで改正を繰り返してきた公務秘密法が根幹をなしていた。しかし、冷戦終結後の21世紀の機密情報漏洩対策には、サイバー攻撃、産業スパイ、複雑な外国のスパイ活動の脅威への対策が必要となり、23年に外国影響登録制度を含むナショナル・セキュリティー・アクト(NSA)2023が定められた。

 同法の運用により、「ハイブリッド脅威(サイバー、産業、外国影響、民間協力者)」モデルへと法制度を移行させた。同法により、最も重大なスパイ行為には終身刑が適用され、スパイ行為に至らなくとも関連行為に対して懲役14年以下を科すことになった。

 NSA2023は、「国家安全保障に関わる諜報・破壊・外国干渉」などを現代的に規定したもので、「重大な保護情報の取得・開示」や「外国情報機関の援助」など、国家機密・安全保障に直接関わる最も深刻な案件に終身刑が適用されることになった。

 さらに、違反行為が英国外で行われた場合でも英国法の適用が可能(英国外行為も適用対象)となる条項が加わり、広範な運用が可能になっている。

(パリ安倍雅信)

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