トップ国際欧州【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (10) 独極右政党に中国のスパイ

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (10) 独極右政党に中国のスパイ

2024年4月23日、フランス東部ストラスブールで欧州連合(EU)欧州議会に出席する極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)のクラー議員(EPA時事)

 欧州の経済大国ドイツは外国のスパイ活動の主要な標的となってきた。近年は、軍事技術や重要インフラ、政治家に対する諜報(ちょうほう)活動が活発化しており、独政府は経済安全保障の観点からも警戒を強めている。

 特にドイツと中国の関係は深い。メルケル元首相は首相在任16年間に12回訪中したが、毎回大規模な経済使節団が随伴した。中国側はドイツとの関係を重視してきた。同時に、ドイツの先端科学技術の獲得のためさまざまな工作を展開した。

 独連邦憲法擁護庁(BfV)の報告書は、「習近平国家主席が政権を掌握した2012年11月以後、諜報・情報活動の重要度が高まった」と指摘、習氏は情報活動を中国共産党の独裁政権の保持のために活用してきたと伝えた。ドイツでは先端科学技術分野で独自技術を有する中小企業にターゲットを合わせ、企業を買収する一方、先端科学情報を有する海外の科学者、学者をオルグ(「千人計画」)している。

 中国の諜報活動、経済活動の目標は、ロボット技術、宇宙開発など先端分野で中国が超大国となる「中国製造2025」戦略の実現にある。中国企業は欧米の先端技術重要産業に豊富な資金を投じて買収してきた。ドイツでは16年、中国の家電メーカー「美的集団」が、1898年にアウグスブルクで創設された産業用ロボットメーカー、クーカ社を買収して話題を呼んだ。

 中国人スパイが関与した事件を挙げる。極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のマクシミリアン・クラー欧州議会議員の補佐官を務めていた中国系の男性が昨年4月23日、中国のためにスパイ活動をしていたとして独東部ドレスデンで逮捕された。検察当局は男性の氏名を「ジアン・G」と発表。Gは「中国の情報機関の職員」であり、ドレスデン工科大学で歴史・文学を学び、中国の太陽光企業勤務を経て、19年からクラー議員の補佐官として働いてきた。

 ドレスデン上級地方裁判所は今年9月30日、起訴されたGに対し、禁錮4年9カ月の実刑判決を言い渡している。クラー氏に対しては中国から資金を受け取ったとして、検察が収賄などの疑いで捜査中だ。

 ちなみに昨年4月22日にも、独連邦検察庁は中国のためにスパイ活動をした容疑でドイツ人の男女3人を独西部のデュッセルドルフとバート・ホンブルクで逮捕した。彼らは軍事利用可能な技術に関する情報を入手したとされている。

 ドイツには、「スパイ防止法」として独立した法律はないが、刑法第94条~第99条に外国諜報機関によるスパイ活動や国家機密の漏洩(ろうえい)を取り締まり、罰する規定がある。

 第94条は国家反逆を取り扱う。国家機密を外国の勢力やその代理人に通報したり、権限のない者に知らしめたり、公表したりして、国家の安全に重大な不利益をもたらす危険を生じさせた者を処罰する。最低1年の自由刑(身体の自由を奪う刑罰)が科される。特に重大なケースでは、最低5年の自由刑または終身自由刑となる。

 第95条は国家機密の開示だ。国家機密を権限のない者に知らしめたり、公表したりして、国家の安全に重大な不利益をもたらす危険を生じさせた者を処罰する。第96条は国家反逆行為(第94条)を実行する目的で、または国外勢力が国家の安全に重大な不利益をもたらす目的で、国家機密を調査または入手する者を処罰する。

 第99条は、外国情報機関のために諜報活動に従事する者を処罰する。罰則は最長5年の自由刑、または罰金刑が科される。特に重大なケースでは、最長10年の自由刑となる。同条は、外国の情報機関による直接的なスパイ活動を明確に禁止する条文として、特に重要な意味を持つ。

(ウィーン小川 敏)

【連載】スパイ防止法制定-公約化される背景(1) 「非対称性」の情報戦に警鐘 機密侵奪に晒される日本 軍事評論家 福山隆氏に聞く(上)

【連載】スパイ防止法制定-公約化される背景(2) 情報で対等な同盟関係を 軍事評論家 福山隆氏(下)

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (3)仏国立安全保障防衛研究センター上席フェロー 新田 容子氏に聞く(上)

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (4) 仏国立安全保障防衛研究センター上席フェロー 新田 容子氏に聞く(下)

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景(5)危機管理投資の重要な一環

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (6)中国「軍民融合」で情報獲得

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (7)参政躍進で法制化議論再燃

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (8)自維国が政策論議を本格化

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景(9)仏ステルス艦情報が中国へ

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (11)英議会で中国スパイに警鐘

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (12)台湾、中国浸透工作を厳戒

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (13) 米で相次ぐ中国スパイ摘発

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (14) 米FBI「おとり作戦」で摘発

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »