

情報活動は各国で行われているが、近年、中国の非合法行為に及ぶ活動が問題視され、防諜(ぼうちょう)機関が取り締まる事件も起きている。
フランスのシンクタンク「国際関係戦略研究所(IRIS)」は、中国がフランスのテクノロジーや経済に対するスパイ活動の一環として、パリ政治学院で2011年以降、情報収集を継続していたことを指摘している。また、多くの仏企業も中国と共謀してフランスで長期にわたって実施していた研究(特に軍事兵器の開発)を全て中国に移転するため、情報を盗み続けたと報告している。
例えば、フランスが台湾に売却したフリゲート艦の情報が北京に流れ、結果として中国はステルス設計された仏海軍のラファイエット級フリゲート艦と非常によく似た、ステルス性を備えた054型フリゲート艦(05年就役)の建造が可能になったと確認されたという。また、対中ビジネスのため仏産業界が機密情報を漏らし、専門分析官が警告しても政府が見て見ぬふりをした例は少なくないとIRISは苦言を呈した。
今年8月、仏南西部トゥールーズ近郊の田舎の一軒家で中国宇宙科技集団(CASC)系の国有企業の勤務歴を持つ中国籍の女性が、無届けで高さ7・5㍍の大型衛星アンテナを自宅のベランダや庭に設置し、仏関連衛星の周波数に合わせて機密情報の傍受を試みた疑いで身柄を拘束された。トゥールーズは航空機メーカー、エアバスや仏空軍の本拠地。フランスの防諜機関「国内治安総局(DGSI)」が捜査したが、女性は容疑を否認した。
サイバーエスピオナージは活発になっており、官民の枢要機関に対するネット侵入、データ窃盗、電子通信傍受などが明確に認められ、監督機関も設置されている。15年にスパイ活動を取り締まる情報法が成立、24年に強化された。
同法により「スパイ活動の対象は国家・軍事・外交」という伝統的な枠組みを超えて、「経済・産業・科学上の重大利益に対する活動」も対象に含まれるようになった。さらに今年、外国からの影響工作や外国主体の情報活動を監視・登録する制度整備の動きも出ている。
フランスの「スパイ罪に関する刑法第411―2条~第411―11条」で定めるスパイ行為は、「フランス人またはフランスの軍務に従事する者が行えば背信、その他の者が行えばスパイ行為」と定められている。罰則は極めて重く、軍事部門のスパイ行為の場合は、禁錮刑30年(終身刑相当)および巨額の罰金刑、情報収集活動も厳しい刑罰が科せられる。
ただ、外交上の判断で国外追放をもって秘密裏に措置する場合もある。摘発された当人は少なくとも、フランス国内でのスパイ活動はできなくなり、再入国も困難になる。
また、中国公安警察のフランスでの活動も露骨になっている。昨年3月22日、パリのシャルル・ド・ゴール空港で、ある男性が7人組の集団に無理やり拉致され、搭乗ゲートまで連れて行かれる事件があった。男性は26歳の中国人反体制活動家・凌華展氏で、中国公安当局が中国へ強制送還しようとしたのだ。
しかし、仏国境警察の介入により頓挫。DGSIによると捜査の結果、誘拐グループのリーダーは中国公安省が派遣した、いわゆる「海外秘密警察」のフランス責任者と判明。仏外務省に「連絡官」として登録されており、外交特権を保証する公用旅券を所持していた。この責任者と補佐官の2人は秘密裏に国外追放された。
さらに昨年5月8日、パリ18区の犯罪対策部隊は、20年10月に新疆ウイグル自治区の中国強制収容所に収容された後、フランスに逃亡していたウイグル系カザフスタン人女性グルバハル・ジャリロワさんが黒ずくめの男12人に拉致されそうになった現場に介入した。逮捕された1人は、中国大使館関連の公用パスポートを所持していた。
(パリ安倍雅信)
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