
フランスのマクロン大統領は10日、ルコルニュ首相(39)を再任した。政権の優先課題だった年金改革実施の延期を受け入れたマクロン政権の弱体化は避けられず、多党化時代のフランス政治危機は続く。(パリ安倍雅信)
ルコルニュ氏の在任期間は歴代最短の27日。辞任4日後の10日、首相に再任された。野党は16日、不信任決議案を提出したが僅差で否決された。
フランスは昨年6、7月の総選挙以来、社会党、共産党、「不服従のフランス」など左派連合の「新人民戦線」、中道の再生、中道右派の共和党、右派の国民連合(RN)のどの党も過半数の議席を得られず、さらに新人民戦線内も分裂状態だ。
今回、不信任決議案の支持に回ったのは左派連合の中の不服従のフランス、共産党、環境政党などの左派小数政党とRN。中道右派の共和党と中道左派の社会党の一部議員も支持した。RNは単独で別の不信任案を提出したが他党の協力を得られず、否決された。
否決の鍵となったのは、社会党に譲歩し、年金改革を先送りにしたことだった。社会党は今後、政権の緊縮財政案に対してさらなる妥協を要求する構えだ。一方、連立を組む共和党は政権の左傾化を嫌い、与党中道連合を離脱した。予算案を巡る議会審議はこれからで、政局は依然不透明な状態が続いており、今後の政権運営も困難が予想される。
フランスでは2030年までに受給開始年齢を62歳から64歳まで段階的に引き上げる年金改革案を巡り、23年に数カ月にわたる激しい抗議運動が起きた。マクロン政権は今回、次期大統領選の27年までこの年金政策を凍結したが、財政を悪化させる可能性が高い。
格付け会社S&Pグローバル・レーティングは17日、政府が年金改革の停止を約束したことを受けて国家財政に関する不確実性が高まったことを理由に、フランスの信用格付けを予定外の更新で引き下げた。国内的に政治機能停止を食い止め、26年の予算案の検討に入るわけだが、フランスの財政を巡る不確実性は依然高まっているとS&Pは判断した。
フランスでは、ルコルニュ氏の前にも、ミシェル・バルニエ氏が3カ月で、次のフランソワ・バイル氏も9カ月で首相の座を追われた。同国の課題である過剰債務を抑えるための歳出削減、公共投資戦略などを含む政府の緊縮予算案が議会で拒否され、内閣は相次いで総辞職に追い込まれた。23年から現在まで5人が入れ替わっている。
大統領制と議会制の混合型のフランスでは、大統領は外交、首相は内政という暗黙のルールがあった。とはいえ、大統領は直接選挙で選ばれるが、首相は議会が推薦した人物を大統領が任命する。議会で過半数を持つ政党があれば首相指名は容易だが、過半数を占める政党がない事態は新しい状況だ。
多党化によって機能不全を起こす議会を一般国民はどう見ているのか。政策ごとにどの政党を支持するかという選択が基本のフランスだが、有権者の政治離れは加速している。25年の政治信頼バロメーター(CEVIPOF)の調査によると、国政への信頼は低迷(大統領23%、首相27%、国民議会24%)している。
一方、直近の総選挙を含め、地方議会選挙や欧州議会選挙で関心が高まると投票率は上がる。昨年の総選挙第1回投票の投票率は66・7%と高かった。さらに反マクロン政権の黄色いベスト運動など街頭での抗議運動も盛んだ。世論を政治に反映させるために行動に移す意識は、今でも欧州でトップクラスだ。
ルコルニュ氏は再任後、「党派政治を排する政治を目指す」として政治家一人一人の人物重視の政治を強調した。政党政治が機能不全に陥る中、20代でカトリックの修道生活を経験し、「修道戦士」がニックネームの不屈の精神で知られるルコルニュ氏は、議会は「党派的利益の人質になってはならない」と警告している。






