トップ国際欧州マクロン政権最大の政治危機 難局打開託された新首相 フランス【ワールドスコープ】

マクロン政権最大の政治危機 難局打開託された新首相 フランス【ワールドスコープ】

10日、パリで演説に臨むフランスのルコルニュ新首相(AFP時事)
10日、パリで演説に臨むフランスのルコルニュ新首相(AFP時事)

 フランスでは2024年の解散総選挙で議会の過半数を持つ政党がなくなり、少数与党を率いるマクロン大統領は難しい舵(かじ)取りを迫られている。昨年9月以降、マクロン氏が指名したバルニエ政権、バイル政権が打ち出した緊縮予算が議会で拒否され、議会はまひ状態で行き詰まる中、今月新たにルコルニュ前国防相が首相に任命された。新首相は難局を乗り切れるのか。(パリ安倍雅信)

 今月に入り、政権崩壊を狙う左派勢力から右派まで野党勢力は、2回にわたる全国規模の抗議デモを実行し、18日のデモには内務省発表で労組を中心に50万人以上が参加した。目標はマクロン政権打倒にあった。

 マクロン氏が新首相に起用したのは、経験豊かな保守のベテラン大物のバルニエ、バイル両氏とは異なる39歳のルコルニュ氏だ。マクロン氏の最側近で、カトリックの運営する学校で学び、修道生活も経験した保守系政治家で最年少の28歳でウール県議会議長に選出され、頭角を現した。

 フランスは2年足らずで5人目の首相を迎え、マクロン政権最大の政治危機に挑む。財政赤字は24年には国内総生産(GDP)比5・8%に達し、欧州連合(EU)の財政規律目標である3%以内を大きく超過しており、EU第2位の経済大国はEUからの強い圧力にさらされている。

 ルコルニュ氏の実績は、18年に始まり2年間続いた反政府デモ「黄色いベスト」運動の鎮静化や国防相として国防予算を増額させたことだ。国防予算を巡ってはウクライナ紛争後の欧州全体の再軍備の流れの中で、左派政党に耳を傾けて成果を出したことが評価されているが、反政府デモに関しては経済政策において野党に対して大幅な譲歩を迫られるのは必至だ。

 マクロン氏の譲れない一線の一つは年金改革で、自身の業績を傷つけたくないとみられる。鍵を握るとみられる、かつての既存大政党、社会党は年金改革の停止を求めているだけでなく、超富裕層への2%課税上乗せの通称「ズックマン税」の導入を主張している。超富裕層への増税は彼らを国外に移住させるとしてマクロン派は反対している。

 今回の首相任命で社会党は党内からの首相選出を求めていた。社会党は左派連合の一部ではあるが、キャスチングボートを握っているほどの勢力でもない。ただ、中道右派の共和党も協力的とはいえ、中道の「再生」党と連立を組む姿勢も見せていない。だが、マクロン陣営は、主流右派・共和党、穏健左派・社会党間の合意で政治危機は乗り越えられると考えている。

 議会第3勢力である右派・国民連合(RN)も、ルコルニュ新首相に圧力を加えている。RNは、米国の保守系有力者チャーリー・カーク氏が殺害されたことで、極左が暴力をあおっていると気勢を上げている。

 RNのマリーヌ・ルペン氏は「この国は二つの勢力に阻まれている。一つは制度まひを企てる大統領派、もう一つはフードをかぶったプチブルジョアにゴミ箱を燃やさせて国を機能停止に追い込もうとする(極左の)『不服従のフランス』党だ」と両勢力を批判している。ルペン氏は演説で、終わりが見えない政治危機の責任はマクロン氏にあると非難している。

 ルコルニュ首相は就任以来、複数メディアに対して左派穏健派グループからの支持を求める意向を明らかにする一方、RNとの「政治取引」の可能性は否定している。これに対して、RNはこれまで控えていたマクロン退陣を明確に主張し、マクロン陣営の社会党との接近は、自殺行為と非難している。

 果たしてマクロン氏も望まないほどの野党との妥協をルコルニュ氏が断行できるのか、先は見えていない。

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