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独与党「社会民主党」内の静かな反乱

「連立協定」を発表した党首たち(左からゼーダーCSU党首、メルツCDU党首、クリングバイルSPD党首、エスケンSPD共同党首),CSU公式サイトから
「連立協定」を発表したドイツの党首たち(左からゼーダーCSU党首、メルツCDU党首、クリングバイルSPD党首、エスケンSPD共同党首)=CSU公式サイトから

中東のイスラエルとイラン間の戦争が激化していることもあって、メディアの関心はどうしても中東に注がれるが、「欧州の盟主」ドイツで看過できない動きが出ている。メルツ首相が率いる「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)の政権ジュニアパートナー「社会民主党」(SPD)内で党現指導部(クリングバイル党首=財務相兼副首相)に対する静かな反乱が生まれているのだ。メルツ連立政権の土台が揺れ出す危険性も排除できない。

社民党は今月27~29日、ベルリンで連邦党大会を開催するが、SPD議員の数名が今月日発表した「マニフェスト」(6頁)が党内に動揺を引き起こしている。署名者たちは前回選挙(2月23日実施)での社民党の歴史的敗北、得票率(16.4%)を指摘し、党の刷新を求める一方、連邦政府の現在の軍備増強政策からの離脱と「ロシアとの協力」を求めているのだ。

独週刊誌シュピーゲルは保守派同盟「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)と中道左派「社会民主党」(SPD)が公表した連立協定(144頁)について、「ドイツにとって中道派の最後のチャンスかもしれない」と評していたが、そのメルツ政権の一方の与党、社民党で不穏な動きが出てきたのだ。

ドイツ連邦議会議員で外交政策専門家のラルフ・シュテグナー氏は、ARDとZDFの番組で、「ロシアのプーチン大統領を軍事力で交渉のテーブルに引きずり出す戦略は失敗した。軍備だけではうまくいかない。ウクライナへの軍事支援と、ロシアとの対話に向けた外交努力の両方を重要だ」と主張している。

ちなみに、メルツ首相は「プーチン大統領と会談することは現時点では無意味だ。ロシアの軍事的脅威に対してはウクライナの支援の継続と欧州の抑止力の強化が要だ」と繰り返し述べている。シュテグナー議員の見解はメルツ首相の軍備力強化路線に対する批判だ。同時に、連立政権下でCDU/CSUの言いなりになっている社民党指導部への不満の表れともいえるだろう。

「マニフェスト」のもう一人の共同署名者であるロルフ・ミュッツェニヒ氏は、ベルリンの新聞ターゲスシュピーゲルに対し、党大会で政策の見直しを求める意向を示唆している。また、SPD元党首ノルベルト・ヴァルター=ボルヤンス氏は、「われわれはロシアとの対話を提唱しているだけだ」と指摘し、CDU/CSU主導の「無制限の軍備拡張」に警鐘を鳴らした(独民間ニュース専門局ntv)。

それに対し、ザールラント州首相のアンケ・レーリンガー氏(SPD)は、ポリティコ・ポータルの「プレイブック・ポッドキャスト」で、「シュテグナー氏やミュッツェニヒ氏の見解は特に驚くべきことではない」と理解を示す一方、「プーチン氏のロシアとの協力は、現状では求められていないと思う」と付け加えた。

SPDの青年部代表フィリップ・トゥルマー氏も「ディ・ツァイト」紙で、「残念ながら私には(マニフェストの内容は)あまりにも近視眼的で、思慮に欠けているように思える。特にロシアのウクライナ侵略戦争に関してはそうだ。交渉に応じようとしないロシアにどう対処するかという重要な問いに対する答えを提示していない」と指摘する。

「マニフェスト」では「国防予算を国内総生産(GDP)の3.5%または5%という固定的な年次増額にとどめることには、安全保障政策上の正当性はない。軍備費を増大し続けるのではなく、貧困削減、気候変動対策、そして私たちが依存する天然資源の破壊防止への投資に、より多くの財源を緊急に投入する必要がある」と記述されている。

また、「ドイツへの米国の新型中距離ミサイルの配備は行わない。米国の長距離超高速ミサイルシステムがドイツに配備されれば、わが国は当初から攻撃目標となってしまう。2026年の核拡散防止条約運用検討会議では、第6条に基づく核軍縮へのコミットメントを、国際法に基づく拘束力のある進捗報告と「先制不使用」宣言によって新たに強化しなければならない。同時に、2026年に失効する戦略兵器削減に関する新戦略兵器削減条約の更新、ならびに欧州における軍備制限、軍備管理、信頼醸成措置、外交、軍縮に関する新たな交渉を求めることが重要だ。 ロシアとの関係緩和と協力体制への段階的な復帰、特に気候変動という共通の脅威との闘いにおいて、南半球のニーズへの配慮。ドイツとEUは東南アジアにおける軍事的エスカレーションに参加しない」などが明記されている。

「マニフェスト」の内容はメルツ政権が進めようとしている外交・安保政策とは明らかに異なる。そのような内容が野党からではなく、与党社民党内から飛び出してきたわけだ。連邦議会におけるSPD議員連盟の主要メンバーは、「マニフェスト」に対し、現時点では距離を置いている。メルツ首相は今月末ベルリンで開催される社民党の党大会の動向を注視するだろう。

なお、ドイツ連邦議会(下院)で5月6日、メルツ党首を首相に選出する投票が行われたが、メルツ氏は第1回投票では選出に必要な過半数の支持を得られなかった。連立政権内でメルツ氏の政策に強く反発する議員が反対票を投じたからだ。当方はこのコラム欄で「メルツ氏は今後、様々な政策を実施する際にも1回目の投票結果を忘れてはならない」と述べ、「第1回目投票の18票の反対票はメルツ氏の政権運営で今後も悩ますことになる」と書いた。その予想は当たっていたようだ。

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