
ウクライナ保安庁は4日、ウクライナ軍が1日に行った「クモの巣」作戦の映像をウェブサイトで公開した。自爆型ドローン117機がロシアの空軍基地4カ所を攻撃し、爆撃機など41機に損害を与えた。プーチン露大統領は報復攻撃に乗り出したが、ロシアの国営メディアは沈黙したままだ。(繁田善成)
6月12日は「ロシアの日」だ。ソ連崩壊後にロシアが独立したことを祝う日であり、全土で祝賀行事を行い、プーチン大統領が著名な文化人や科学者に国家賞を授与する。
最近ではウクライナ侵攻の正当性と、愛国心高揚を呼び掛ける日として、政権はこの日の祝賀行事により重点を置くようになった。
それだけに、ウクライナが1日に行った「クモの巣」作戦で、ロシア軍の爆撃機など41機が次々と炎上する映像は、ロシアのメンツを丸つぶれにするものだった。
モスクワにほど近いリャザニ州やイワノボ州に加え、北部ムルマンスク州や東シベリア・イルクーツク州の空軍基地が攻撃目標となった。
ドローンは木製のコンテナに収容されており、トラックで目的地まで運ばれた。トラックの運転手は依頼された積み荷を運んだだけで、中身については何も知らなかった。遠隔操作でコンテナの上部が開き、ドローンが次々と発進したという。
標的となったのは主に、ウクライナに対する巡航ミサイル攻撃を行うTU95爆撃機やTU22M爆撃機で、A50早期警戒管制機にも被害が出た。ウクライナ保安庁は「ロシアは70億㌦(約1兆円)の被害を受けた」と発表した。
ウクライナはさらに3日、ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナのクリミア半島と、ロシア南部を結ぶクリミア大橋に攻撃を加え、支柱の一部に損傷を与えた。
プーチン大統領は「クモの巣」作戦や、クリミア大橋攻撃について、国民に語り掛けることはなかった。トランプ米大統領との電話会談で、「クモの巣」作戦への報復を表明したが、国営メディアは、この「報復」についてほとんど触れていない。
クレムリンの広報担当者も沈黙し、ロシアの国営テレビは「バイコヌール宇宙基地開所記念日への祝辞」や「児童権利委員との会談」など、録画されたプーチン大統領の映像を流すだけだった。
プーチン政権は、ウクライナ軍の攻撃で、ロシアが大規模な損害を出したと認めることはできない。
モスクワなどの住民にとって、ウクライナ侵攻は、自らの生活とは直接関係がない「遠い場所」でのできごとである。侵攻したロシアは連戦連勝しており、戦争に行くのは地方の貧しい住民だ。戦時経済で景気はいい。物価高が続いているが、その程度は「正義の戦争」のために我慢する。
しかし、ロシアが戦場となり、自らの生活に危険が及ぶならば話は変わるだろう。プーチン政権をいつまで支持するかは分からない。
一方、大きな失態を犯した連邦保安局(FSB)は、恥の上塗りをすることになる。クリミア大橋の警備規模を倍増し、さらに、どのように行うのかは不明だが、ロシア領内のすべての橋に警備体制を敷くよう勧告した。
また、「クモの巣」作戦でドローンを運んだトラックをチャーターした企業がチェリャビンスクにあったことから、チェリャビンスクのナンバーを付けたトラックを徹底的に検問し、各地でトラックの滞留を引き起こした。
「ロシアの日」には、文化人や科学者への表彰が行われてきた。しかし、ウクライナ侵攻後は、外国の会議に参加したり、外国人の同僚と接触したという“罪”で、多くの文化人や科学者が反逆罪で告発され、多くのロシアの頭脳が国外に脱出した。
プーチン政権は「報復」として、ウクライナに大規模な攻撃を行っている。この戦争でロシアは、ウクライナの一部領土を得るだろう。しかし、ロシアがどれだけ多くのものを失ったのか、プーチン大統領は理解しているのだろうか。