
フランス国民議会(下院)で5月27日、安楽死合法化法案が過半数で可決され、上院に送られた。厳格な条件の下で自らの命を絶つことを認める方向へ進む西欧諸国が増える中、フランスもその流れに加わった形だ。だが、カトリック教会は反対し、医療関係者からも異論が出ている。(パリ安倍雅信)
法案の対象となる患者は18歳以上で、フランス国籍または永住権を保有している必要がある。さらに生命を脅かす「重篤かつ不治の病」を患い、「進行期」または「末期」の段階に達している必要があると定められている。
可決の翌日、心臓医でもあるヤニック・ヌデール仏保健・医療相は「誰かが苦しんでいるとき、誰かが困難を抱えているとき、代わりの解決策があるかもしれないと伝えるのが、医療従事者としての私たちの医療的役割だ」と、社会情報ジャーナリスト協会(Ajis)でのスピーチで強調した。一方で「(緩和ケアで)痛みの管理や医療を受けることよりも、積極的な安楽死の方が容易になってほしくない」と懸念を示した。
フランスのカトリック教会は「生命倫理の一線を越える危険な試みであり、特に高齢者などの社会的弱者に対する圧力」と指摘、生命は神聖なもので人間が死に関与すること自体、「声明を軽視する危険な動き」と批判している。
欧州ではオーストリア、ベルギー、ルクセンブルク、スイス、オランダ、スペインで、既にさまざまな形で安楽死が合法化されている。英国では、11月に下院が合法化に賛成し、現在、法案は最終段階にあるが、慎重論も消えていない。
フランスは1986年に終末期ケアに関する患者の権利が法制化された。何度かの法改正で、患者の「QOL(生活の質)」を最大限に重視しており、医療機関や在宅ケアの選択肢が充実しているとされる一方、緩和医療の専門医の数の確保、施設の充実は十分でない現状も指摘されている。さらに医師が意図的に社会的貢献度の高い患者を優先していることがたびたび指摘されている。
法案は、5月27日に下院で投票した議員の約5分の3の賛成により可決された。左派は主に賛成票を投じ、右派と極右は反対票を投じたが、反対は予想ほど大きくはなかった。安楽死法制化を目指すマクロン大統領は、議会で成立しなければ、国民投票も辞さないとしている。
法案は賛成305票、反対199票、棄権57票を獲得し、可決し、上院に送られた。法案可決後、仏公共テレビ、フランス2で放送された死に逝く患者に付き添って自宅まで送る若い看護師と看護助手のノルマンディーのドキュメンタリーを放送した。フランス人に「良い死」とはどのようなものか尋ねると、その答えはほぼ全員一致で、ベッドの上で愛する人たちに囲まれ、苦しまずに死ぬことだと答えるが、それはめったにかなわない願いと同番組は指摘する。
現実は、死亡の75%が病院や老人ホームで孤独な死を迎えているという。さらにここ数十年で緩和ケアが発展してきたにもかかわらず、十分なケアが提供されていないため、患者のほぼ半数が緩和ケアを受けることができていないと指摘されている。
フランスは、自殺幇助(ほうじょ)や安楽死は言うまでもなく、「安楽死幇助」を合法化する法律を最終的に制定する可能性があるとカトリック教会は批判している。離婚、結婚を繰り返し家族崩壊が進むフランスでは、もはや家族に見守られながら生涯を終えることは難しい。それを加速させる法律が制定されようとしていることを強く批判している。