【パリ安倍雅信】欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会のアポストロス・ツィツィコスタス運輸委員は8日、欧州の港湾は「安全保障を再検討し、外国企業の進出をより慎重に調査する必要がある」との通達を企業向けに出した。背景には中国企業が欧州の港湾約30カ所に株式を保有しており、安全保障上の懸念が高まっているからだ。
欧州はこれまで域内の海の玄関である港湾について、中国企業が桁外れの規模で港湾を支配しているにも関わらず、安全保障上の懸念を高めることはなかった。中国は広域経済圏「一帯一路」構想で、陸路、空路、海路を抑えることに余念がなく、陸路はすでに東北の大連からドイツ・ハンブルクまで鉄道が繋(つな)がっており、欧州・中国間の双方向の輸出入製品が輸送されている。
海路ではイタリアのトリエステ市が中国企業の欧州供給拠点として湾岸拠点整備への投資を受けた経緯がある。右派のメローニ政権は2023年12月、いったん締結した中国の一帯一路から離脱した。欧州委員会は、最近の防衛白書で「重要な輸送インフラ」の外国所有に対するより厳しい規制の考えを浮上させ、その懸念を反映させた。これまで無害と考えられていた湾岸投資は、世界情勢の緊張の中で一変した。
欧州議会の社会党と民主党の草案にも反映されており、EU外国投資審査規則の今後の見直しによって、より厳しい規則を求める内容となっている。欧州ポリティコによれば、ベルギー王立高等防衛研究所の研究員、サイモン・ファン・ホーイミッセン氏の調査で、アントワープ、ブルージュやロッテルダムからギリシャのピレウスに至るまで、ヨーロッパの主要港湾における北京の支配拡大を示唆している可能性が高いと指摘した。
中国大手の中国遠洋運輸集団(COSCO)や招商局集団、香港に拠点を置くハチソンは現在、EU全域で30以上のターミナルに株式を保有していると報じられている。欧州議会の海・河川・島嶼・沿岸地域問題グループに所属する中道右派の欧州人民党所属のポルトガル議員アナ・ミゲル・ペドロ氏は「現実は明白だ」と述べ、欧州域内の港湾に巧妙に入り込んでいると警告している。
欧州関係者はトランプ政権が中国関連企業のパナマ運河からの撤退を求める流れから、EUも北大西洋条約機構(NATO)の軍装備品の輸送も考慮に入れ、中国企業の追い出しに本腰を入れるべきとの意見が高まっている。