トップ国際欧州独、ウクライナに巡航ミサイル供与へ 次期首相発言にロシア反発

独、ウクライナに巡航ミサイル供与へ 次期首相発言にロシア反発

ドイツのメルツ・キリスト教⺠主同盟(CDU)党首(左)とクリンクバイル社会民主党(SPD)党首=9⽇、ベルリン(dpa時事)

ドイツのキリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首は、5月6日に連邦議会で正式に首相に選出される予定だ。今月13日、公営放送の番組でドイツ軍が誇る長距離巡航ミサイル「タウルス」のウクライナ供与に前向きな発言をした。予想されたことだが、ロシアからは「ウクライナ戦争をエスカレートさせる」といった非難の声が飛び出している。(ウィーン小川 敏)

「ドイツ、タウルスをウクライナに供与」というニュースが報じられると、ルクセンブルクで欧州連合(EU)外相会合に出席していたカラス外交安全保障上級代表は、これを歓迎し、 「ウクライナが自国を防衛し、民間人が死ななくて済むよう、私たちはもっと努力しなければならない」と述べた。

メルツ氏は野党指導者時代からウクライナへのタウルスの供与には前向きだった。「ウクライナ軍は防御に追われ、相手側の攻撃に反応するだけだったが、(タウルスがあれば)ロシアが併合したウクライナのクリミア半島とロシアを結ぶ最も重要な陸上交通路のケルチ橋を破壊することも可能だ。プーチン大統領が弱みを見せたり和平の申し出に前向きに応じるとは思えないが、彼はこの戦争の絶望性をいつかは認識するはずだ。そのためにも、ウクライナを支援しなければならない」と述べている。

タウルス供与発言に対し、ロシアから脅迫が届いた。クレムリンのペスコフ大統領報道官は、「ウクライナの戦争を激化させる」と警告した。メドベージェフ前大統領はⅩ(旧ツイッター)で、「今、メルツはクリミア橋への攻撃を提案した。よく考えろ、ナチス!」と非難した。

批判はロシアからだけではない。ドイツの社会民主党(SPD)の国防相代行ピストリウス氏はハノーバーでのSPDの会議で、次期首相となるメルツ氏が欧州のパートナーと連携してタウルスをウクライナに配備する計画について懐疑的な見解を示している。

欧州では英国とフランスが既に同様の巡航ミサイルをウクライナに供与しているが、英国の「ストームシャドー」とフランスの「スカルプ」はタウルスより精度が低く、射程も大幅に短い。タウルスの射程は500㌔だ。ウクライナ軍がタウルスをロシア領土内に向けて発射しないといった危険は完全には排除できない。

退任するSPDのショルツ首相は、タウルスの納入がドイツを戦争に引きずり込む恐れがあると懸念し、ウクライナやフランスから供与への圧力があった時も一貫して拒否してきた。

 一方、メルニック前駐独ウクライナ大使は「ウクライナに150発のタウルスを迅速に供給すべきだ」とメルツ氏にハッパをかけた。

 ドイツがその主要な兵器システムを紛争地へ供与する場合、他の欧州諸国とは異なり、国内外で議論が噴出する。例えば、ドイツの主力戦車「レオパルト2」のウクライナへの供与問題の時もそうだった。レオパルト2の供与を躊躇(ちゅうちょ)するドイツに対し、欧米諸国から圧力が強まった。最終的にはショルツ首相とバイデン米大統領(当時)の協議の末、米独両政府は2023年1月25日、ウクライナに戦車を供与すると発表した。米国はエイブラムス31両を、ドイツはレオパルト2、14両をそれぞれ供与することで決着した。ドイツは第2次世界大戦の悪夢もあってか、単独で武器の供与を決定することに慎重だ。

 メルツ氏はタウルスの場合、英仏両国と話し合って決めることになるが、トランプ米大統領と協議するか否かは不確かだ。ロシアを刺激する恐れのあるタウルスのウクライナ供与にトランプ氏が反対する可能性は考えられる。いずれにしても、タウルス供与はドイツにとって、レオパルト2の供与の時より、大きな冒険となりそうだ。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »