トップ国際欧州「強い欧州へ」蘇る英外交 停戦へ主要国会合を主導 【連載】ウクライナ侵攻4年目 米欧のあつれき(上)

「強い欧州へ」蘇る英外交 停戦へ主要国会合を主導 【連載】ウクライナ侵攻4年目 米欧のあつれき(上)

2日、ロンドンのランカスターハウスに到着したウクライナのゼレンスキー大統領(左)を出迎えるスターマー英首相(AFP時事
ロシアのウクライナ侵攻から3年、早期の戦闘終了を掲げるトランプ米政権の発足を受けて、停戦への機運が盛り上がった。一方で、欧州の防衛力強化を迫るトランプ氏に対し欧州は、対露国防体制の再構築を迫られている。

ウクライナ停戦問題で英ロンドンで急遽(きゅうきょ)開催された欧州主要国首脳会合は、欧州連合(EU)を離脱して5年が経過した英国が再び欧州の代表国として登場する舞台となった。

英国のスターマー首相は1日、ワシントンでトランプ米大統領らとの会合が決裂して意気消沈していたウクライナのゼレンスキー大統領を温かく迎え抱擁した。そのシーンは2020年1月のブレグジット(英国のEU離脱)以来低迷してきた英国の外交が蘇(よみがえ)った瞬間でもあった。

スターマー氏は会合前にワシントンでトランプ氏と、ウクライナ停戦問題を話し合っている。ロシアとの停戦を急ぐトランプ氏に対して欧州の立場を説明するとともに、米露間の停戦交渉がうまくいくように連携姿勢を見せた。その数日後、スターマー氏は欧州主要国にウクライナ停戦問題での欧州の役割を話し合うための会合を招集した。

ロンドンで2日開催された会合には、同じようにウクライナ停戦問題でイニシアチブを発揮しているフランスのマクロン大統領はじめ、EUのフォンデアライエン委員長、北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長らが参加し、欧州独自のウクライナ停戦案をまとめた。会合は、「欧州に英国あり」といった印象を世界に発信するとともに、労働党政権率いるスターマー氏の大きな外交ポイントとなったことは間違いないだろう。「ホワイトハウスの外交決裂劇」と「ロンドンの欧州主要国首脳会合」は外交演出という観点から見れば対照的だった。

独民間放送ニュース専門局NTVのコラムニスト、ボルフラム・バイマー記者は4日のコラムの中で、「EU離脱から5年がたった今、英国人が旧大陸の主導的役割を再び担い始めた。非EU加盟国がEUを団結させ、自信に満ちた新たな欧州精神の世界を切り開いたのだ。カウボーイ、専制君主、マフィアの手法を取り入れた新世界秩序の中で、英国人は欧州的、民主的であり、信頼でき、心地よい古風なやり方を誠実に見せた」と論評している。

スターマー氏はこれまで華やかさに欠けた人物のように見られてきた。しかし今、欧米間の外交危機を巧みに利用して尊敬を集めている。バイマー記者は「最初は自信がなかった首相が、今は自信に満ちた世界政治のプレーヤーのように見える。米国に失望している不安な欧州人たちに優しい顔を見せている」と描写した。

欧州の諸問題は今後、スターマー氏、マクロン氏、ドイツの次期首相メルツ氏の3人の指導者が中心になってまとめていくことになるだろう。3人はいずれも「強く、自信を持った欧州」を主張している。もちろん、問題がないわけではない。欧州の二大核保有国、英国とフランス両国の主導権争いも出てくるだろう。

「EUには4億4800万人以上が住んでいるが、米国には3億4000万人しかいない。EUは世界最大の工業製品とサービスの輸出国だ。世界貿易に占めるEUのシェアは13.7%だが、米国は10.4%にすぎない。EUは17兆ユーロ(2700兆円)の国内総生産を生み出している。ロシアは2兆ユーロしかない。経済的にEUはロシアの8倍強い」(バイマー記者)

スターマー氏は「欧州の分裂は私たち全員を弱体化させる。われわれは歴史の岐路に立っている」と欧州各国に行動を呼び掛けた。EUの25年上半期議長国ポーランドのトゥスク首相はX(旧ツイッター)に、「欧州は目覚めた」と投稿、欧州復活への期待をにじませた。(ウィーン小川 敏)

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