
【パリ安倍雅信】欧州独自の防衛力強化が議論される中、2月末、仏マクロン大統領は同国が保有する核兵器を欧州諸国で共有する案を提起した。仏政界は敏感に反応し、右派・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン氏は「抑止力の共有は、フランス安保へのリスクになる」と国民議会(仏下院)で強く批判した。
フランソワ・バイル首相が3月3日、同議会でマクロン氏の提案に対する意見を求めた際、駐ウクライナ大使が見守る中、ルペン氏はそのように強く反対した。一方、傍聴席にいた欧州議会議員の仏ラファエル・グリュックスマン氏は議会後、大統領の提案を支持する発言を行った。
ドイツ連邦議会選後、第1党となったキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のフリードリヒ・メルツ党首は、「ドイツも英仏の核の傘の下に入る選択肢がある」との見解を示している。
欧州で核兵器を所有しているのは英国と欧州連合(EU)のフランス。米ソ対立の東西冷戦時代に核戦争の脅威にさらされる中、英国は1952年に世界で3番目、フランスは1960年に4番目の核保有国となった。特にフランスはドゴール政権時代に独立した自主防衛路線を掲げ、独自の核抑止力を持つことにこだわった。
マクロン大統領は米欧同盟が転機を迎える中、フランスが保有する核兵器を欧州防衛に役立てることに意欲を示した形だ。長期にわたり、米国に依存してきた欧州の安全保障体制を改め、独自の体制を構築する持論があるからだ。
ウクライナのゼレンスキー大統領がトランプ米大統領と対立した最近の状況を受け、欧州の核抑止態勢の再構築は急を要する議論に浮上している。
ただ、常に独自防衛を追求してきたフランス国内では、他の欧州諸国をフランスの核の傘下に入れることには、相当の抵抗も予想される。