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苦境のマクロン政権 新首相で膠着抜け出せるか フランス

フランスの新首相に任命されたフランソワ・バイル氏 =3月24日、中部ブロワ(AFP時事)

フランスのマクロン大統領は13日、フランソワ・バイル氏を首相に任命した。仏政界の重鎮の一人、中道政治家のバイル氏は左派が嫌う人物である一方、右派・国民連合(RN)率いるマリーヌ・ルペン氏の理解者でもある。カトリック出身の「フランスの良心」の代弁者は、ハングパーラメント(宙づり)議会を融和に導けるのか、手腕が問われる。(パリ安倍雅信)

今年7月の国民議会(下院)総選挙で、ジャンリュック・メランション氏が率いる急進左派政党「不服従のフランス」など4党からなる左派連合、新人民戦線(NFP)が第1勢力になった一方、第2勢力の中道の大統領派アンサンブル、第3勢力となったRNが僅差で迫り、過半数を占める政党がない状態に陥っている。

マクロン氏は今年9月、中道右派の共和党(LR)出身のミシェル・バルニエ氏を首相に指名し、最大の懸案事項である財政赤字削減の予算案の審議を行ってきた。結果的に与野党が拮抗(きっこう)する議会で議決できず、バルニエ氏は憲法で認められている議会審議なしで法案を可決する道を選んだが、直後に不信任案が提出され、可決された。

議会でのRNの影響は大きく、バイル氏は早急に予算案を作成し直し、分裂した議会の一角から少なくともRNの暗黙の支持を得られる内容にする必要がある。マクロン氏はバイル氏がRNと関係が悪くないことに懸けたとの見方もある。RNのルペン氏は「マクロン主義の継承は行き詰まる」と釘(くぎ)を刺した。

バイル氏はフランスでは広く知られた政治家で、過去3度大統領選にも出馬し、1度は第1回投票で3位につけたこともある。マクロン氏が登場する以前から中道主義を打ち出し、現在では中道の民主運動(MoDem)を率い、自分の出身地でもある仏南西部ポーの市長でもある。

カトリック教徒として知られ、父親は農業従事者でありながら、村長も務め、バイル氏には6人の子供がいる。彼を「フランスの良心」と呼ぶ声もあり、左派のミッテラン政権末期に政府を率いた中道右派のバラデュール首相によって国民教育相に任命された。

その後、2度にわたり、国民教育相を務め、2017年のフィリップ政権では短命ながら法相も務めた。地元ピレネーアトランティック県でも議員活動を続け、地域に残るベアルヌ語の保護にも力を入れている。保守派だが、人道主義、民主主義を自らの政治信条として体現している。

一方、1999年から3年間は欧州議会議員も務め、欧州主義の理解者だ。バイル氏は左派と右派に二極化した政党対立に疑問を抱き、大中道主義の先駆け的存在だった。マクロン氏が持ち込んだ中道主義は、バイル氏が下地をつくったともいえる。そのため、バイル氏は若いマクロン氏の支援者となった。

ただ、現在の宙づり議会は、立法府に必要な絶対多数を擁する政治勢力が存在しないため、完全にリセットする必要があるが、憲法上、大統領は最後の解散総選挙から1年がたつ来年7月までは選挙を実施できない。そのため、マクロン氏が73歳の老練な中道政治家を首相に任命するのは論理的といえる。

ただ、分断から融和に向かうには、旧政権大政党だった社会党(PS)とLRに残った人々の結集、あるいは少なくとも善意の獲得が焦点となる。LRは9月にバルニエ首相を輩出したため、溝はないが、PSとの溝を埋めるのはこれからの作業だ。PS側はバルニエ氏の次にPSから首相が選出されなかったことに不快感を持っている。

今後、閣僚の任命、2025年予算案の議会通過を急ぐバイル氏は、その前に来年1月1日に政府機関が機能停止に陥らない特別法を制定する必要がある。フランスの財政赤字を今年の6・1%から5%に引き下げるべく、増税と歳出削減を組み合わせた600億ユーロ(約9兆7000億円)規模の調整を目指した当初予算案のリセットが急がれる。

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