トップ国際欧州トランプ再選で欧州に不安 米のNATO脱退リスク

トランプ再選で欧州に不安 米のNATO脱退リスク

10月11日、ベルリンで握手を交わすドイツのショルツ首相 (右)とウクライナのゼレンスキー大統領(AFP時事)
トランプ前大統領再選は、大西洋を越えた欧州の安全保障体制に大きな変更を迫る可能性が高い。特にロシアのウクライナ侵攻の行方が注目される中、欧州メディアは米国の欧州での役割の縮小を懸念する声が大きく、米側は欧州が戦略的自治を強化することを望むだろうと指摘する。欧州の米国依存の行方はどうなるのか。(パリ安倍雅信)

トランプ氏再選はウクライナ侵攻以上に欧州の人々を不安にさせている。大きな政府による管理国家が主流の欧州は、米国の民主党政権とは親和性が高いが、小さな政府、自由主義を前面に掲げる共和党とは考え方に大きな隔たりがあり、特にトランプ氏再選を評価する論調は欧州にはない。

トランプ次期大統領は北大西洋条約機構(NATO)に対して、選挙期間中に「NATOに対するいかなる攻撃も、団結した強力な対応で迎え撃つだろう」と述べる一方、「自国を本気で守る気のない同盟国は守らない」と釘(くぎ)を刺した。現在、国内総生産(GDP)の2%以上を国防費に充てるというトランプ氏の要件を満たしている加盟国は全32カ国中22カ国だけだ。

NATO全体としてはGDP比2・71%、米国は3・38%で全体の約7割を負担している。負担が低い順では、スペイン1・28%、スロバキア1・29%、ルクセンブルク1・29%などで、逆にウクライナに近いポーランドはトップの4・14%、2位はエストニアの3・43%、ラトビアは米国に次ぐ4位の3・13%で、仏独は2%前半と低い。

NATOは本来、東西冷戦期にソ連を抑止する目的で設立され、一つの加盟国への攻撃はすべての加盟国への攻撃と見なすという防衛条項「第5条」が基本にある。同条項が発動されたのは、2001年の米同時多発テロに続くアフガン攻撃1回のみで、全同盟国の軍隊が作戦を支援した。だが、ウクライナは加盟国でないためにNATOとしては軍隊を派遣していない。

ウクライナ侵攻は結果的に、欧州の安全保障が依然として米国の軍事力に依存しており、米国がウクライナへの軍事援助の主な提供国であることも浮き彫りにした。実際、2024年、米国は国防費として推定9677億㌦を支出し、NATO加盟国の中で群を抜いている。2番目に高い国はドイツで977億㌦、英国が3位だが、そのギャップは大きい。

中でもドイツは、21年時点で国防費をGDP比1・1~1・4%に抑えていたが、24年末までにGDP比2%に相当する717億ユーロ(約12兆円)の国防費を計上した。ただ、国防費を確保するための財政赤字をGDP比3・5%未満に抑える「債務ブレーキ」で連立政権が分裂し、今月の政権崩壊の引き金となった。

欧州は今、トランプ氏再選がもたらす激変に備えている。米国のNATO脱退リスクだ。NATOは今年4月、トランプ再選を前提に向こう5年間、最大1000億㌦に上るウクライナ軍事支援計画をまとめた。欧州議会は最大350億ユーロを承認しているが、実際の各加盟国の拠出額の調整は協議が必要だ。

米国のNATO負担が圧倒的なだけに、米国不在で欧州安全保障体制をリセットするのは至難の業だ。米戦略国際問題研究所(CSIS)は最近、「米国は今や欧州の戦略的自治を望んでいる」との論文を出し、ポリティコ欧州版も、欧州は米国依存を捨てることで官僚主義・社会主義からの改革に着手できるとしているが、戦略的自治を確立するには相当な時間を要する。

仏日刊紙ルモンドは、トランプ氏再選について「皆がショックを受けた16年とは全く違う」と指摘する東欧の外交官の見方を紹介し、10月1日に就任したNATOのルッテ事務総長(オランダ前首相)は「新大統領に対して機敏かつ毅然(きぜん)とした態度を取る術(すべ)を知っている」ことも選出の理由と書いた。

ウクライナ侵攻を大統領就任前に終わらせると公言するトランプ氏に対して、政治混乱で足腰が弱まる仏独、ロシア寄りのEU加盟国ハンガリー、右派ポピュリズムが台頭する欧州議会、トランプ新政権の関税圧力で中国製品がなだれ込む欧州は、新たな激変の時代へ難しいかじ取りを迫られている。

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