パリで2019年に大火災に見舞われたノートルダム大聖堂は修復を終え、12月8日に一般公開が予定されている。入場料を取るかどうかとともに、今も信仰の対象なのか、歴史記憶遺産なのか、論争が巻き起こっている。
問題提起したのはモロッコの法学者で作家のアミン・エルバヒ氏。アラブ系イスラム教徒のエルバヒ氏は、「フランス社会は2000年にわたるキリスト教の歴史を放棄しつつある」と主張している。
ノートルダム大聖堂は、幾多の歴史的試練を経験している。大革命があった1789年以降、カトリック教会の権威は王制と共に否定され、その象徴であった大聖堂は倉庫になっていた。マクロン大統領にとっては「過去の遺物」でしかない。
100年以上前に政教分離「ライシテ」を国是としたことで、カトリック教会は社会の隅に追いやられ、信者は激減、今では全国各地で教会の建物の閉鎖や売却が相次いでいる。結果的に観光スポット化した教会は、観光収入を得られる文化施設との受け止め方が強い。
無論、ノートルダム大聖堂では信者が集まる礼拝などの宗教儀式は行われているが、細々と存続しているだけだ。基本的にはフランス国内の大聖堂の入場は無料で、カトリックの方針は神の館として「来るものは拒まず」だが、ノートルダム大聖堂が入場料を取れば、その基本は崩壊する。
歴史的建造物の維持には資金が必要だ。フランスにはライシテの考えから宗教法人法はなく、カトリック教会やイスラム教の礼拝所、小さな新興宗教の組織も文化活動をする民間の協会団体でしかない。伝統宗教はどのように生き延びていくのか。子供の時から教会に通っていた世代は70代に達している。(パリ安倍雅信)