【パリ安倍雅信】英国とドイツは23日、安全保障、投資、雇用の促進を目的とした防衛協定に署名した。この協定に伴い独防衛企業ラインメタルは、英国に火砲の砲身を製造する新工場を開設し、400人の雇用を生み出す。ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州の防衛産業拡充が必須となる中、両国はドローンと新型長距離ミサイルの開発でも協力する。
両国の防衛当局者によると、この新たな協定で、ドイツの対潜哨戒機がスコットランドのロシーマス空軍基地から定期的に北大西洋で哨戒飛行を実施できるようになる。ヒーリー英国防相は「両国の歴史にとって重要な日」と調印後の記者会見で述べた。英国の欧州連合(EU)離脱後、両者間の関係再構築が求められていた。
背景には北大西洋条約機構(NATO)の防衛強化があり、さらに今回の協定は、米大統領選で、NATOの米国依存をリセットしたいトランプ前大統領が再選された場合の英国と欧州の関係強化の原動力になるとみられている。スターマー英首相もドイツとの軍事的関係を強化することを約束していた。
英国はキャメロン政権時代の2010年にフランスのサルコジ政権と防衛協定を結んでいるが、ドイツとの協定は今回が初めて。英独両国は欧州で最大の防衛費支出国で、ウクライナに対しても欧州最大規模の軍事援助を行っている。
トランプ氏が再選され、ウクライナ支援を中止した場合でも、欧州が独自にウクライナ支援を継続できるようにするための布石とも考えられる。ドイツのラインメタルと英国のBAEシステムズが設立したRBSLはシュロップシャー州テルフォードでボクサー装甲戦闘車と最新のチャレンジャー3戦車を製造している。
ただ、ドイツがウクライナ軍事支援で武器使用にさまざまな制限をかけるなど、英独間には外交軍事政策で違いがあり、ドイツ側の政治的調整が今後の課題になるとみられている。