Home国際欧州英仏海峡不法移民、死者数が最多 密航斡旋への罰則強化へ

英仏海峡不法移民、死者数が最多 密航斡旋への罰則強化へ

イタリア南部ランペドゥーザ島に到着した移民ら =2023年9月18日(AFP時事)
ドーバー海峡をフランスから英国に渡ろうとする不法移民が増える中、ボートの沈没で乳児が死亡する悲劇が発生した。英仏海峡を渡る移民の死者数が最多記録を更新する中、仏英政府は改めて密航を斡旋(あっせん)する国際犯罪組織の摘発と罰則強化に強い意志を示したが、悲劇を終わらせる可能性は見えていない。(パリ安倍雅信)

今月18日夜、仏北部ウイサンの浜辺から英国を目指した密航ボートが沈没し、乳児の遺体が発見されたと仏当局が伝えた。ボートには違法な渡航を試みる移民らが乗り込み、救助隊が十数人を救助したが、数人は水中で発見された。9月初めには、フランス沖で数十人を乗せたボートが沈没し、子供6人と妊婦1人を含む12人が死亡した。

1カ月後、2隻のボートに乗り込んだ2歳の男児を含む4人が船上で「踏みつぶされて死亡した」とみられる事故が発生している。現時点で海峡での移民の死者総数は少なくとも53人となったが、当局は正確な人数の把握は難しいとしている。

不法移民が英国を目指すのは、欧州内で働く機会が最も多いためで、英語が母国語の一つとされている国からの渡航者が多い。さらに大陸欧州ほど雇用制度や社会保障制度が厳格でなく、すでに英国内に自らの出身国コミュニティーが存在することも挙げられる。

悲劇が続く背景には、巨額の利益を手にする国際的な密航斡旋業者の存在がある。フランスでは現在、密航に関わり、人身取引で起訴された密航業者の裁判が行われている。クルド人密輸団のメンバーで、すでに有罪判決を受け、殺人未遂罪でも懲役8年の刑に服しているラソール被告は、法廷通訳官への脅迫も追加されている。

通称「死の商人裁判」は、フランスより英国の方が注目度は高い。密航斡旋ギャング団は出航したボート1隻につき最大6万ユーロ(約960万円)を得ており、ギャング団の年収は350万ユーロ(約5億6000万円)と推定されている。

この裁判のジュリー・カロス主任検察官は、「懲役最長15年、罰金20万ユーロ、およびフランス領土からの永久追放を求める」と厳格な罰則を訴えている。一方、主犯格の密航業者は英国に潜伏しているのに英国は本腰を入れて捜査しないと非難する声もある。

北アフリカのリビアからイタリアに向かう移民船でも悲劇はたびたび起きている。最近は欧州連合(EU)が難民申請をアフリカ側の事務所でできる体制を整備しているが、申請自体が難しい人々も押し寄せ、不法民の強制送還も強化している。

今年9月、就任したばかりのバルニエ仏首相は「国境は“ふるい”だ」と発言し、物議を醸した。リビアからイタリアにたどり着くルートもイタリアからフランスを通過し、英国に向かうルートも国境を越えていく必要がある。多くの場合、正規の渡航は困難なため、国境を越えるのは死と隣り合わせだ。

人の移動を保証するため国境検問を廃止したシェンゲン協定には、EUの大半の国が参加しているが、今年5月、自由移動地域の国境での規制の再導入へ枠組みを改定した。特に移民移動の規制強化で、拘束力のある措置を講じることも可能になった。

この改革で、国家の安全に対する重大な脅威が生じた場合、国家は最長2年間、国境での規制を許可できると規定されており、1年間の延長も可能となった。

国境検問復活はテロリストの移動制限ができないことや新型コロナウイルスの感染拡大阻止による国境検問復活が議論された結果だが、今後は非正規移民が国境を越えて移動する手続きも導入される。

ただ、専門家は不法移民に関して、ウクライナ紛争や中東危機が高まる中、自国を逃れる移民・難民の増加は避けられず、巨額の犯罪組織の利益につながっている以上、悲劇回避は困難との見方が大勢を占めている。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »