
今から約30年前、国民戦線(FN)を創設したジャンマリ・ルペン氏と食事をしたことがあった。その時の印象は、筋金入りの反共で愛国主義者だった。食事の時の冗談でも共産主義者への悪口を繰り返し、移民排斥についても「私は愛国者だ。アフリカから留学のためにフランスに来るのは構わないが、彼らも愛国者なら、自分の国に帰って国に貢献すべきだ」と語っていた。
今、娘の代の国民連合(RN)の躍進が伝えられている。そもそもフランスで右派・左派の政治的スペクトルが定着したのは1789年のフランス革命後の国民議会で、議長席から見て右側に王党派や保守派が、左側に革命を推進した急進派や共和主義者が座ったことに由来する。
20世紀に入り、イタリアのファシズム、ドイツのナチズムなどの運動が極端なナショナリズム、反民主主義、反共、さらには人種差別的民族主義を掲げたことで、極右という言葉が生まれた。20世紀後半には増加するイスラム系移民やグローバル化で不利益を被る人々の受け皿にもなった。
当然、共和主義の右派勢力からも社会主義を目指す左派勢力からも極右は忌まわしい存在として嫌われた。ただ、かつてのFNがそうであったように、不満を持つ少数派有権者の受け皿として一定数の支持を得られても、過激で危険なイメージが拭えないために政権政党になる可能性はなかった。ところが国政選挙でも地方選挙でも、さらには欧州議会選挙でも確実に議席を伸ばしてきた。
2007年に党首となった娘のマリーヌ・ルペン氏は、政権政党を目指すために庶民を味方に付ける政策に重心を置き、国家と国民の生活を守ることを宣言した。記者が今回、取材した13人のフランス人の中で、RNに投票すると答えたのは10人、前回までマクロン大統領の中道政党、中道右派・共和党、左派連合に投票したが、何も良くならなかったので今回はRNに投票すると答えていた。
RNはメディアに対して、「極右」という言葉を外すよう要求している。前回22年の総選挙からRNを支持するIT企業経営者のシャンポリオン氏は「ルペン氏が主唱する内容は極めて常識的な右派の主張で、深刻な社会問題の具体的解決に応じており、何も危険性は感じない」と言っている。(パリ安倍雅信)