
ドイツ初の3党連立のショルツ政権は発足以来、政治信条の違いもあって政権内で対立、いがみ合いを繰り返してきた。9日に実施された欧州議会選挙でショルツ政権の3党はいずれも惨敗し、国民から不信任を突き付けられた。ドイツで早期総選挙の実施を求める声が聞かれ始めた。(ウィーン小川 敏)
6月9日に実施された欧州議会選挙(定数720、任期5年)のドイツでの結果を振り返ってみる。第1位は野党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)で得票率約30%、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が15・9%で2位、ショルツ首相の与党・社会民主党(SPD)が13・9%で3位、与党・緑の党が11・9%、左翼党から分かれた左派ポピュリスト政党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟」(BSW)6・2%、与党・自由民主党(FDP)5・2%と続く。
次期連邦議会選挙の中間選挙と受け取られた欧州議会選では、CDU/CSUが断トツに強かった一方、ショルツ首相が率いる連立政権のSPD、緑の党、FDPはいずれも後退した。特に、ドイツの脱原発、再生可能なエネルギーへの転換を推進してきた環境保護政党、緑の党は前回(2019年)比で大幅に得票率を下げ、獲得議席は12議席(9議席減)にとどまった。
ショルツ政権が推進するグリーン政策に伴うコストアップはメイド・イン・ジャーマニーの競争力の低下をもたらしているが、緑の党はその主犯者と受け取られ、欧州議会選で懲罰を受けた感じだ。一方、移民・難民問題では厳格な外国人排斥、反難民を主張してきたAfDは東独地域を中心に票を集め、得票率でショルツ首相のSPDを抜いて第2党に躍進した。
欧州議会選でショルツ連立政権3党の得票率は約31%。CDU/CSUの30%とほとんど変わらない。選挙結果が判明した直後、CDUのメルツ党首は「ショルツ政権がドイツ国民の支持を得ていないことが改めて明らかになった」と表明、CSUのゼーダー党首(バイエルン州首相)は「国民の30%の支持しかないショルツ連立政権は早期退陣し、総選挙を実施すべきだ」と主張している。
隣国フランスでは、大統領候補のマリーヌ・ルペン氏の右派「国民連合」(ジョルダン・バルデラ党首=RN)が得票率約31・4%(30議席)で、マクロン大統領の与党連合の倍以上の票を獲得した。その直後、マクロン大統領は「欧州議会選の結果を何もなかったようには扱えない」として下院を解散し、今月30日と7月7日に議会選挙を実施すると表明したばかりだ。ドイツでも早期総選挙を実施すべきだという声が当然出てくるわけだ。
ドイツ民間ニュース専門局ntvは11日、「欧州議会選がドイツを揺るがしている。ショルツ連立は瀕死(ひんし)の状態だ」と分析し、「右派ポピュリストが東部ドイツ全域で明確に優勢であり、若者は全国的に『緑の党』よりもAfDを選び、労働者はAfDやCDUを好む。新興のポピュリスト政党BSWがFDPより強くなり、左派党は消え、SPDはもはや国民政党でなくなってきた」とドイツ政界の大変革を指摘した。
政権内でもショルツ首相への逆風が強まっている。政権内の対立で予算審議が停滞し、SPD内ではポスト・ショルツとしてピストリウス国防相の名前が出てきている。9月、旧東独の3州(ザクセン州、テューリンゲン州、ブランデンブルク州)の議会選が実施されるが、SPDの苦戦が予想されている。ショルツ首相に東独3州の議会選の結果は最後の打撃となるかもしれない。
ショルツ首相には、早期選挙を決断するか、来年秋までの任期を満了後、総選挙を実施するか、決断を迫る圧力が高まってきた。