
バイデン米大統領が、米国がウクライナに提供する武器のロシア領内への使用を容認する発言を行って以来、仏独の同調もあり、欧州域内で緊張が高まっている。ロシア軍の最新の攻勢によって、西側諸国が供給する兵器使用の範囲を巡る議論は高まる一方だ。(パリ安倍雅信)
ロシアは5月に入り、ウクライナに対してミサイルとドローンによる大規模な攻撃を開始し、同国の電力システムに被害を与えた。ロシアの攻撃が弱まる気配はない。特にハリコフ州への攻撃はウクライナ側に戦争の敗北という危機感を与えた。
この攻勢によって、ウクライナに供給されている西側諸国の兵器の使用に関する現在の制限が軍事的に不合理であることが浮き彫りになった。ロシア軍司令部は、ウクライナが反撃できないことを熟知し、国境地帯を安全な避難場所として活用し、戦力を集中させている。
バイデン政権は5月末、ロシア軍の激しい攻勢にさらされるウクライナに対して、北東部ハリコフ州の防衛を目的に、米国が供与した兵器を使用してロシア領内を攻撃することを許可したと発表した。
米国に先立ち、フランスのマクロン大統領は5月28日、ウクライナ攻撃でミサイルが発射されるロシアの軍事拠点の無力化に限って、西側提供のミサイルの使用許可を下すべきだとの認識を示した。
一方、ドイツ政府もバイデン政権の発表に続き、ウクライナに対し、ドイツが提供した武器でロシア領を攻撃する許可を与えたことを明らかにした。ドイツはロシア領土の奥深くを攻撃できる長距離巡航ミサイル「タウルス」を提供することを拒否してきたが、慎重姿勢を転換した格好だ。
欧州諸国の多くが加盟する北大西洋条約機構(NATO)は、ウクライナによる西側諸国の兵器使用に対する制限の撤廃を支持している唯一の国際機関だ。加盟32カ国のNATO議員らは5月27日、同盟国に対しロシア国内の軍事目標への攻撃を許可するよう求める宣言を採択した。
「ウクライナはロシアの補給線とロシアの作戦基地を攻撃できなければ自国を防衛することは不可能。この現実を認識し、ウクライナにやるべきことをやらせる時が来た」とNATO議会議長のミハル・シュチェルバ氏は述べた。NATOのストルテンベルグ事務総長も、全同盟国に対してロシアの標的に西側諸国の兵器使用禁止措置の撤回を求めた。
法的根拠にこだわるドイツも、シュテフェン・ヘベストライト政府報道官が「こうした攻撃からウクライナは国際法上、自国を防衛する権利を持っている」とし、「そのために、ウクライナは、われわれが供給したものも含め、国際法上の義務に従って、この目的のために供給された兵器を使用するのは合法だ」と述べた。
ただ、米国はロシア国内への長距離地対地ミサイル「ATACMS」などによる長距離攻撃を禁止するという方針を変えていないし、マクロン氏は「ロシアの(軍事基地や兵器庫以外の)他の目標や民間への攻撃は許してはならない」と述べている。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、NATO諸国、特に「米国と欧州諸国は、あらゆる手段を使ってウクライナを刺激し、この無意味な戦争を継続させようとしている」と強く非難した。
デンマークが今夏、ウクライナに引き渡す予定のF16戦闘機について、ロシア当局は、自国領土でF16が使用される可能性に強い不快感を示している。F16を提供するオランダやベルギーはロシア領空飛行には否定的だ。
今回のウクライナに供給された西側兵器のロシア領土攻撃の範囲は、国境付近の軍事基地や兵器庫に限定される。核使用へのエスカレーションの脅威を考慮してのこととみられるが、ロシアの出方次第で、その範囲拡大を変更するとみられている。