ロシアのプーチン大統領(71)は7日、モスクワのクレムリンで大統領就任式に臨み、通算5期目の大統領に就任した。「われわれは団結した偉大な国民であり、共に勝利しよう」と、ウクライナ侵攻の継続を訴えたプーチン氏は、“国民の団結”を図るため、さまざまな施策を進めている。(繁田善成)

ロシア下院には「外国によるロシアへの内政干渉の事例調査委員会」という、長い名前の委員会がある。同委員会のピスカレフ委員長は4日、「非友好的な国家により、大統領就任式に向け反露的な情報が流布されたが、ロシア国民に影響を与えることはできなかった」と、国民の団結の強さを誇示してみせた。
しかし、何を根拠にこう判断したのだろう。というのも、ウクライナ侵攻に反対するロシアの人々は、SNSなどで意見を述べたり、匿名のはずの世論調査で正直に回答したりすることさえも恐れているからだ。
プーチン大統領の政治理念は単純である。この戦争に勝利することがすべてであり、そのために最も必要なものは、ミサイルや戦車ではなく、国民を団結させ、戦争遂行を支持させることだ、というものだ。
そのためには、愛国心を煽(あお)ったり、反対派を弾圧したりするだけでは不十分なようだ。
平和主義的な発言をしたり、当局が承認しないイベントに参加したりしたメディア関係者やタレント、芸術家、実業家らが「悔い改めた」インタビュー映像がSNSにアップされる事例が増えている。
これら「悔い改めた」著名人がウクライナ東部の最前線を訪れ、そこで改めて「ウクライナ解放」を支持するメッセージを発することもある。
なぜプーチン政権はこのようなことをしているのか。これは当面の“国民の団結”を図るだけでなく、長期的な視野での“国民の団結”を図る施策である。
それは、政権交代後(恐らくはプーチン大統領の死後)も、社会に影響力を持つ彼らが、ウクライナ侵攻に対する評価の見直しに、全力で反対するように仕向けるためである。評価が見直されれば、彼らはかつてナチスに協力した芸術家たちのように、社会から追われる存在になるからだ。
侵攻開始から2年以上が過ぎたが、ロシア、ウクライナとも戦略的成功を収めていない。だからといって休戦することは、プーチン氏にとっても、ウクライナのゼレンスキー大統領にとっても政治的なリスクである。
そのような中でロシアの一部専門家の間では「並行して危機を作り出し、そこで成功を収め、それを利用して欧米と取引しウクライナ紛争を解決する」という選択肢が浮上している。
現時点では単なるアイデアだ。しかし、軍事専門家が言う「夏の攻勢」が失敗に終われば、検討されるかもしれない。
気になるのは、ロシアの扇動家が、ジョージア派兵の必要性を語り始めたことだ。
ジョージアでは、外国から資金提供を受けている団体を規制する「外国の代理人」法案の審議が、親露派与党「ジョージアの夢」主導で進んでいる。これに反発する市民数千人が首都トビリシで連日抗議集会を行い、一部で治安部隊と衝突した。親欧米派のズラビシビリ大統領は法案に反対しているが、与党は大統領の拒否権を覆すことができる。
ロシアのプロパガンダチャンネル「ソロビヨフ・ライブ」の司会者カルナウホフ氏は、この抗議集会は、ウクライナのマイダン革命(2014年)と同様に、米国の支援を受けた裏切り者が組織したものであり、ロシア軍を派兵しジョージアの治安部隊を支援すべきだと指摘。さらには、法案に反対するズラビシビリ大統領を実力で排除すべきだと公然と主張した。