イスラエルが19日にイランを攻撃し、空軍基地のレーダーを破壊したと米メディアが報じた。紛争拡大を懸念する米欧など国際社会からイスラエルに対し自制を求める声が上がる中、イスラエルはイランによる本土への大規模攻撃の報復として、限定的な攻撃を行ったとみられる。(エルサレム森田貴裕)
米紙ニューヨーク・タイムズは20日 、イラン当局者2人の話として、イラン領空から遠く離れたところからイスラエル軍戦闘機が発射したミサイルが、イラン中部イスファハンの軍事施設にあるロシア製の防空システム「S300」に命中したと報じた。レーダーを回避できるステルス機能を搭載したミサイルであったため捕捉できなかったという。また、西側消息筋によると、ヨルダンが潜在的な紛争に巻き込まれないようにするため、イスラエル軍のミサイルも戦闘機もヨルダン領空には進入しなかったという。
イスラエル紙「タイムズ・オブ・イスラエル」によると、人工衛星画像からナタンズの核施設を防衛するシェカリ空軍基地にあるS300の対空レーダーの損傷が確認されたという。
イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事アナリストであるロネン・バーグマン氏によれば、今回のイスラエルによるハイテク兵器を使用したイラン空軍基地への限定的な攻撃は、イランからの報復の抑止力になるという。バーグマン氏は 、「ほんの序の口」にすぎない攻撃だったが、イスラエルには防空網をかいくぐりイランを攻撃する能力があるということを明確に知らしめたと語った。
今月1日に在シリア・イラン大使館領事部の建物がイスラエル軍によるとみられる空爆を受け、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の司令官ら7人が死亡した。イランは、この空爆をイスラエル軍による攻撃と断定し報復を宣言。13日夜、イランはイスラエルの軍事施設を標的に史上初めてとなる直接攻撃を開始した。イランは、「国連憲章に基づく正当な自衛権の行使だ」と主張した。
イスラエル軍によれば、イランは13日夜から14日未明にかけイスラエル本土へ向けてドローン(無人機)約170機、巡航ミサイル30発、弾道ミサイル120発を発射した。軍報道官は99%を迎撃したと発表した。イスラエル当局者らによると、米・英・仏・ヨルダン軍が、イスラエルの防衛を支援し、多数のドローンを撃ち落としたという。米中央軍は80機以上のドローンと6発の弾道ミサイルを迎撃したと明らかにした。
イスラエル戦時内閣は、反撃による中東地域への紛争拡大は望んでいないとしながらも、イランへの対抗措置として「明確かつ強力に反撃」することを決定。イスラエルのネタニヤフ首相は、「われわれは自ら決定を下し、自衛のために必要なことは全てする」と述べ、強硬姿勢を示した。イスラエルのガラント国防相はオースティン米国防長官との電話会談で、イランに反撃する以外に選択肢はないことを伝え、米側は、イランに反撃する場合、事前に通告するよう求めたという。
一方、イランのライシ大統領は、「イランの国益に反するいかなる行動に対しても、必ず厳しく報復する」と表明。イスラエルが狙うイランの核施設が攻撃された場合、報復の連鎖を招く恐れがあり、中東全域を巻き込むような紛争に拡大する可能性が高まっていた。
イランのメディアは、今回のイスファハンへの攻撃には小型ドローン3機が使われ、防空システムによって迎撃したと報じている。中東に関する国連安保理の会合に出席するため米国を訪問していたイランのアブドラヒアン外相は、米メデイアで、「ドローンはイラン国内から発射され、数百メートル飛行した後に撃墜された」と語り、ミサイル攻撃や軍事施設の被害については言及しなかった。
イスラエル軍によるとみられるイスファハンへの攻撃について、イランのライシ大統領のコメントはない。イラン空軍基地へのミサイル攻撃に関して、イスラエルからの公式な発表も出ていない。両国は、事態の沈静化に向けて沈黙を守っているようだ。