
イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの軍事攻撃がジェノサイド(集団殺害)に当たるかを巡る訴訟で、国連の最高位の司法機関である国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)は1月26日、イスラエルに対し大量虐殺を防ぐためのあらゆる手段を講じるよう命じた。南アフリカが求めた軍事作戦の即時停止は命じなかった。(エルサレム・森田貴裕)
南アフリカは昨年12月、イスラエルがジェノサイド条約に違反しているとしてICJに提訴し、判決までの緊急措置として軍事作戦の即時停止を命じるよう求めていた。ジェノサイド条約は、第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を受け1951年に発効した。600万人の大量虐殺を受けたとされるユダヤ人の国家が、大量虐殺の罪で訴えられている。判決は通常数年~10年かかるとされる。
ICJは、イスラエルに対し暫定的な措置として、①ジェノサイド条約に反する行為を防ぐためあらゆる手段を講じること②イスラエル軍による条約違反の防止③大量虐殺の扇動行為の防止や処分④ガザ地区の人道状況を改善するための措置⑤ガザ地区におけるイスラエル軍の行動に関する証拠保全と隠蔽(いんぺい)防止⑥これらの措置の実施に関する報告書を1カ月以内にICJに提出――を命じた。ただ、ICJの命令に強制力はない。
イスラエルはガザ地区でのハマスに対する軍事作戦で、これまで民間人の犠牲を最小限にとどめるため、攻撃の対象となる地域の住民に退避を呼び掛けたり、的を絞った攻撃など異例の措置を講じてきた。ICJが今回イスラエルに対し命じた暫定的措置は、イスラエルがガザ地区で既に行っている措置を実施し、実際に取った行動について報告を求める内容となった。
イスラエルのネタニヤフ首相は26日、ビデオ声明を出し、「イスラエルは国際法を守るのと同様に、わが国と国民を守る義務も果たし続ける。このイスラエルの基本的な権利を否定することはユダヤ人国家に対するあからさまな差別であり、拒絶する」と述べ、イスラム組織ハマスに対する軍事作戦はイスラエルの自衛権の行使だと強調した。
ネタニヤフ氏は、「われわれの戦争は、イスラエル国民を殺害、強姦(ごうかん)、首を切り、誘拐したハマスに対してのものであり、パレスチナの民間人に対するものではない」と説明。「ハマスが民間人を人間の盾に利用しようとも、イスラエルは人道支援を機能させ、民間人を危険から可能な限り遠ざける努力を続ける」として、ガザ地区の民間人の安全に配慮する姿勢を強調した。また、「ハマスの壊滅と人質全員の帰還、ガザ地区が二度とイスラエルの脅威にならないよう完全に勝利するまで戦い続ける」と改めて表明した。
イスラエルに関するICJの訴訟は、今回が初めてではない。ICJは2004年、国連総会決議に基づく訴訟で、イスラエルが占領下のヨルダン川西岸に建設した「分離壁」は国際法違反であるとの判決を下している。しかし、イスラエルは自爆テロ防止に壁の建設は必要だとして分離壁建設を続けた。
ICJはまた、ハマスに対し、ガザ地区で拘束している残りの人質100人以上を即時に無条件で解放するよう求めた。イスラエル殲滅(せんめつ)を目指すハマスは、米国や欧州連合(EU)など多くの主要国からテロ組織に指定されている。ハマス幹部のガジ・ハマド氏は、昨年10月7日のイスラエル南部への奇襲攻撃後、レバノンのテレビ局で、「われわれは、今後も同様の襲撃を何度でも繰り返す」と宣言している。
イスラエルは、「大量虐殺を行っているのはハマスだ」と反論する。ハマスが大量虐殺を犯した当事者だとしても、国家ではないテロ組織をICJに提訴することはできない。イスラエルは、停戦を求める国際社会からの批判を浴びながらも、自衛のための戦いを続ける以外に選択肢はない。