
ロシアのウクライナ侵攻は2月で開始から2年となる。昨年はウクライナの反転攻勢への期待が高かったため、その失敗が印象付けられたが、客観的に見れば、ロシア、ウクライナのどちらも軍事的目標を達成できなかった。欧米の「ウクライナ支援疲れ」が指摘される一方で、対露経済制裁もその効果を出しつつある。(繁田善成)
ウクライナは2023年6月、ロシア軍に占領された領土を奪還し、同時に、ロシアが2014年に併合したクリミア半島に到達することを狙い、東部から南部にかけた複数の方面で反転攻勢を開始した。
一方のロシア軍は占領地に強固な防御陣地を築き上げ、さらに「常軌を逸した(ウクライナのダニロフ国家安全保障国防会議書記)」数の地雷でウクライナ軍を迎え撃った。これらに行く手を阻まれたウクライナ軍は多くの損害を出し、反転攻勢は「失敗」との見方が広がった。
もっとも、ロシアが軍事的成功を収めたわけではない。ロシア軍司令部は、まず、プーチン大統領の誕生日である10月7日、そして、プーチン大統領の5選を目指した大統領選キャンペーンの開始に合わせ、何らかの軍事的勝利を得ようとしたが、事実上それは果たせず、戦線は膠着(こうちゃく)した。
ロシアは12月25日になって、ドネツク州マリンカを完全制圧したと発表した。しかし、1年にわたる激しい戦闘でほぼ完全な廃墟(はいきょ)と化したマリンカの姿は、プロパガンダで使うにしてもあまりにも痛々しかった。
もっとも、国際情勢はロシアを利する方向へ進みつつある。ウクライナの反転攻勢が期待した成果を得られない中、欧米諸国はウクライナへの軍事援助の削減に動き、ロシアとの停戦を模索するよう促し始めた。10月7日に始まったイスラエルとハマスの戦闘は、国際社会の関心をウクライナから逸(そ)らす一方で、ロシアの同盟国であるイランと北朝鮮は、ロシアに大量の無人機と砲弾を供給し続けている。
ロシアの国内情勢もプーチン政権に追い風となった。徹底した情報統制により、戦闘が長期化しているものの、国民はそれを受け入れている。ロシア経済は回復基調にあり、国際通貨基金は23年のロシアのGDP成長率を従来の1・5%から2・3%に引き上げた。
もっとも、ロシアの経済成長は、政府が軍需品生産と、軍人家族の支払いに資金を注入した結果だ。23年の初めから9月までに、国内の通貨供給量は7兆7200億ルーブル(9・4%)増加した。
欧米による経済制裁は、今のところ期待したロシアの意思をくじくほどの結果をもたらしていない。先進7カ国(G7)は、ロシアの主要な収入源であるエネルギー輸出に打撃を与えるため、ロシア産石油の上限価格を設定した。しかし、ロシアは石油の輸出先を中国やインド、トルコなどに切り替え、さらに、ロシアが独自に調達したタンカー「影の船団」を駆使し、欧米の制裁を掻(か)い潜(くぐ)っている。
しかし、欧米は、ロシアが「影の船団」として使ったギリシャの古いタンカー約100隻をすでに特定し、対策を取りつつある。国際的決済網SWIFTから排除されたロシアの銀行システムは、複雑な送金取引に悩まされている。通貨供給量の増大はインフレをもたらし、鶏卵など食料品価格が高騰した。2024年のロシアの経済成長は失速する見通しだ。
欧米の支援疲れでウクライナが厳しい立場に立たされる一方で、ロシアの足元も揺らぎ始めている。