パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエル襲撃へのドイツの反応は素早かった。ショルツ独首相は17日、イスラエル入りし、ネタニヤフ首相と会談、「わが国は無条件でイスラエルを支持する」と連帯を表明した。その一方、ドイツ国内では親ハマス派のデモ集会が行われるなど、反ユダヤ主義的言動が広がっている。ドイツに住むユダヤ人は生命の危険を感じだしているという。(ウィーン・小川 敏)
ハマスの奇襲に対するドイツの立場を最も明確に述べたのはハベック副首相(経済相兼任)だ。ハマスのテロを厳しく批判する一方、「多くのイスラエル人が犠牲となった。そのような中でドイツ国内で親ハマスのデモ集会が開催されることは絶対に許されない」と主張、イスラエル支援は「わが国の義務だ」と述べている。 ベルリンのブランデンブルク門で22日、宗教代表者や政治家らがイスラエルのための連帯集会に参加した。モットーは「イスラエルへの連帯と思いやりを持って、テロ、憎悪、反ユダヤ主義に立ち向かおう」で、主催者によると2万5000人が参加した。
その一方、ハマス、パレスチナ人を支援するデモ集会が開催され、パレスチナ自治区ガザに軍事侵攻を図るイスラエルを批判する声が高まる一方、国内のユダヤ教関連施設が襲撃されるといった出来事が絶えない。
フェーザー内相は記者会見で、「反ユダヤ主義的事件が増加している。わが国はそのような犯行を絶対に容認しない」と強調した。独週刊誌シュピーゲル(10月14日号)はドイツで最も反ユダヤ主義的傾向が強い首都ベルリン南東部ノイケルン区のルポ記事を掲載し、アラブ系住民の声を拾っている。
ドイツのユダヤ人中央評議会のヨーゼフ・シュスター会長はフランクフルター・アルゲマイネ日曜版(10月21日付)のインタビューで、「ドイツに住むユダヤ人は脅威を感じている」と説明、反ユダヤ主義がドイツで高まっていると警告を発した。
シュスター会長は、「ドイツでパレスチナ人のデモへの参加者が大幅に増えている。(欧州に難民が殺到した)2015年以後、ドイツに入国し、当初は目立たずに行動していた人々の一部が、今では街頭に繰り出して暴力的に振る舞っている」と主張している。
ベルリンで18日、2人の男性が火炎瓶を使ってベルリンのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)を襲撃した。中央評議会の説明によると、事件の前夜、若者を中心とした数百人が反イスラエル集会のためにブランデンブルク門に集まった。彼らはガザ地区の病院への攻撃はイスラエル軍によるものだとするハマスの報告を受けて激怒していたという。
ベルリンのラビ、イェフダ・タイヒタル師はベルリン・モルゲンポスト(10月18日付)のインタビューで、「ユダヤ人の命が確実に守られるように、あらゆる手段を講じてほしい。ユダヤ人が公の場でヤムルカ(浅くて丸い帽子)やダビデの星を着用できなくなる状況は悲劇だ」と述べている。
イスラム系住民は家庭で反イスラエル教育を受けてきたこともあって、反ユダヤ主義的傾向はもともと強いが、ドイツの場合それだけではない。極右過激派の存在だ。極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は連邦議会に議席を有する。
移民反対、外国人排斥を掲げる一方、党指導部には反ユダヤ主義傾向が見られ、ガス室の存在を否定し、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を否定する発言をする支持者もいる。ドイツ連邦憲法擁護庁はAfDを危険な団体として監視対象に指定している。
そのAfDは最新の世論調査によると、「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)に次いで20%以上の支持率を得ている。