
ウクライナによる大規模反転攻勢が、ロシア軍の強固な防御陣地に阻まれ苦戦する中、ロシアはこの戦争をさらに長引かせる方針を固めたようだ。プーチン政権の失政の結果である経済困難や国民の生活水準の低下の責任を、すべて欧米とウクライナになすり付けることで、政権の維持を図る構えだ。(繁田 善成)
ロシアがウクライナ侵攻を開始してから534日が経過した。ロシアは侵攻当初の「3日でのキエフ占領」に失敗した後、戦略目標をウクライナ東部と南部の占領に転換した。そして、天然ガス供給停止による欧州諸国の揺さぶりや、ウクライナ人の戦意喪失を狙った後方への攻撃、さらには核使用のほのめかしなどを経て、現在に至る。
一方のウクライナは、ロシア軍の猛攻に耐え反撃に転じ、第2の都市ハルキウなどを奪還した。その後、欧米から供与された重火器の到着を待ち、春の泥濘(でいねい)期が終わったタイミングで、東部ドネツク州や南部で大規模な反転攻勢に打って出た。
しかし、ロシア軍が東部や南部に築いた強固な防御陣地や、「常軌を逸した(ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記)」数の地雷に阻まれ、大規模反攻から2カ月が経過した現在も、苦戦を強いられている。ロシア軍は攻め込まれてはいるものの、ウクライナが決定的な戦略的成功を収める明確な兆候はない。
この状況は、プーチン政権にとって好ましいものだ。というのも、「ナチスからウクライナ国民を解放する」という「特別軍事作戦」の当初の目標が達成困難となったプーチン大統領は、これに代わる新たな目標、すなわち「戦争をいつまでも継続する」という目標を設定したとみられるからだ。
「特別軍事作戦」は、現在のプーチン政権が権力を維持するのに都合がいい。反対派の弾圧は、軍事的必要性によって正当化される。20年以上にわたるプーチン体制の政治・経済運営の失敗や国民の生活水準の低下は、「欧米とウクライナが引き起こした」戦時中の苦難にすり替えられた。
ロシアのペスコフ大統領報道官は7月31日、記者会見で次のように語った。
「キエフ政権が現在の立場で平和的解決に至ることは絶対に不可能だ。これは前提条件ではない」「キエフ政権が欧米とロシアの戦争の道具として使われている以上、彼らは平和を望まないし、望むこともできない」
ウクライナがこのような主張に同意することはない。つまりは、ロシアは戦争を止める気がないということである。
ウクライナはドローンを使い、モスクワの超高層ビルやアパート、クリミア大橋に攻撃を行い、モスクワも戦場であることをロシア人に示して見せた。ロシアの軍事施設や鉄道などに対する破壊工作も続いている。
しかし、マスコミを統制するロシア政府のプロパガンダは極めて強力である。ロシア国民の少なくとも60%は今も「ロシアは正義である」「ロシアはウクライナでナチスと戦っている」と信じ込み、ウクライナ侵攻を積極的に支持しているのだ。
もし、プーチン大統領が死亡するか、何らかの形で権力の座から追放されたならば、戦争が終わると考える人々もいるだろう。しかし、たとえそうなったとしても、ロシアを操るのはプーチン氏と同じ現政権の中にいる人々である。
ニューヨークタイムズ8月6日付の記事「プーチンの永遠の戦争」で、ペスコフ氏は「われわれの大統領選挙は民主主義ではない。カネのかかる官僚制だ」と語った。ペスコフ氏はこの記事に不満を持っているようだが、言ったこと自体は否定していない。
実際、ロシアの選挙は単なる官僚的手続きである。大統領府が計画やシナリオを作成し、官僚機構がそれに沿って票割りや広報活動をコントロールし、計画通りの「選挙結果」を実現する。当選する議員、当選する大統領は、大統領府の意向に沿った人だけである。






