Home国際欧州【連載】ウクライナ侵攻1年 識者に聞く 社会不安増大で露連邦解体へ 米ジェームスタウン財団上級研究員 ヤヌス・ブガイスキー氏(上)

【連載】ウクライナ侵攻1年 識者に聞く 社会不安増大で露連邦解体へ 米ジェームスタウン財団上級研究員 ヤヌス・ブガイスキー氏(上)

 Janusz Bugajski 英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで文化人類学の修士・博士号を取得。米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)上級研究員、欧州政策分析センター(CEPA)上級研究員を経て、現在ジェームスタウン財団上級研究員。米国務省や国防総省、国際開発庁など政府機関でコンサルタントも務める。近著に『破綻国家 ロシア解体への道しるべ』 。

――あなたは著書で、プーチン露大統領がウクライナ侵攻を決断したのは、ロシアが「破綻国家」となることへの恐怖心からだと指摘している。

ウクライナ侵攻は、単に領土や資源を獲得するためではなく、ウクライナ人を確実にロシア人化させることが目的だ。ロシアのプロパガンダを聞くと、自国の人口が減少する中、ウクライナが完全に成功した独立国家として西欧の同盟国の一員となれば、自らの歴史やアイデンティティーが脅かされると感じていることが分かる。

つまり、ウクライナがロシアの一部であるとする考えやロシア国家やロシア正教会の誕生の経緯についてのロシアのナラティブ(物語)が揺らいでしまうのだ。これが、プーチン氏が侵略するだけでなく、ウクライナ人をできるだけ多く同化してロシア人化し、それ以外は殺害しようと考えた、非常に重要な理由だ。

もう一つの理由は、ウクライナが経済的に繁栄し、欧州連合(EU)に加盟すれば、国境を跨(また)いだロシアの貧しい地域へ、重大なメッセージを伝えることになることだ。つまり、経済的利益や政治的権利も全く与えない政府をなぜ容認するのか、なぜウクライナのような民主主義政府を持たないのか、という疑問をもたらす。それは、プーチン政権全体やロシアの政治構造自体を揺るがせ得ることだ。

演説するプーチン大統領=2023年2月21日(UPI)

――ロシア国民は、この戦争についてどう感じているのか。

 ロシアに住んでいる人や出国した人、ロシアと交流がある人たちの話から、戦争の状況に対する不満が高まっていることが分かる。

多くの人は、傍観者で世論調査にも答えず、テレビでさほど戦況を追うこともしない。しかし「親ロシアの新政権が誕生する」「制裁が解除されロシアはエネルギー供給国として大きな力を取り戻す」などというプロパガンダは、信用を失ってきている。特に若者などインターネットへのアクセスをする人も増えている。

だから一見、プーチン氏が支持されているように見えたとしても、ロシアの敗北が始まれば、政権に対する反発が、特に若者の間でより顕在化したとしても不思議はない。

――あなたはロシア連邦の解体を予測してきたが、ウクライナ戦争はそれを加速させたのか。

ロシアではウクライナ侵攻前から経済は停滞していた。エネルギー資源に過度に依存しているほか、世界で最も経済的に不平等な社会の一つだ。特にモスクワのエリート層では、腐敗が横行している。

今回の戦争はこの問題を加速させている。その一つは、国際社会による制裁で、これから非常に効果を発揮するだろう。最近、ロシアの経済学者と話したが、今のところ国家予算はほぼ維持されているものの、戦費が増加している分、社会福祉やインフラ、年金などの予算が削られるという。

すでに多くの地方ではモスクワから資源を搾取されているとの感情が高まっている。これから予算が減少し、戦場に送り出した多くの兵士が死亡する中、政権への反発が強まり、社会不安が増大するだろう。戦争以前から、極東のハバロフスクやウラジオストク、バルト海沿岸の飛び地カリーニングラードはすでに社会不安が起きていた。

ロシアは広大な国土を持つとともに、83もの地域(州、共和国など)がある。これらをすべて抑圧するには限界がある。こうした地域から主権や自治の拡大、最終的には独立を求める声が高まることで、もはや国家の統合を維持することはできなくなるだろう。

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