
今年初夏から熱波に襲われたフランスでは、森林火災、干ばつなどの被害が過去最大規模となり、地球温暖化による気候変動への危機感が過去になく高まっている。環境問題は世界的課題であり、一国だけの対応では限界がある。先進国による途上国への温暖化対策への支援も急務だ。(パリ・安倍雅信)
マクロン大統領は7日、エジプトで開催されている国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27、18日まで)の首脳級会合で「ロシア産エネルギーの脅威にさらされても、われわれは気候変動対策を放棄すべきではない」と述べ、各国に目標達成に向け努力を継続するよう訴えた。
フランスは欧州連合(EU)が掲げる2030年の温室効果ガス55%削減目標の達成に向け、省エネ、再生可能エネルギーおよび原子力発電の開発加速の三つの柱に重点を置いた政策を進めている。特に原発に関しては、50年までに6基の原子炉および、小型原子炉など新型を含め、計14基の増設を表明している。
マクロン氏は今回、EUに限らず、すべての先進国は石炭依存からの脱却努力を続ける必要があると同時に、新興国の脱炭素化に力を貸すべきことを強調した。具体策として、南アフリカの脱石炭戦略に10億ユーロ(1440億円)を投資するほか、インドネシア、インド、セネガルでも脱炭素化支援を独自に行う方針を示した。
温室効果ガス削減は、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の主要目標の一つで、フランスでも確実に浸透している。例えば、高速道路の最高速度を今の時速130㌔から110㌔に下げる案をドライバーの50%以上が支持している。この措置を取れば政府支出なしに温室効果ガスが最大20%削減できることが分かっている。
ただ、一国での努力では成果は限られており、最大の排出国である米中が本腰を入れない限り、地球の生態系の危機は回避できない。
『世界の崩壊はおそらく起こらないだろう』の著者で知られるフランスの未来学者、アントワーヌ・ブエノ氏の見方が注目されている。同氏はフランス上院顧問でSDGs委員会の作業部会をフォローしており、崩壊論者でも楽観論者でもない「希望を持ち続ける」論者と言われている。
仏週刊誌レクスプレスはブエノ氏の主張を「気候、出生率―崩壊が(おそらく)起こらない10の理由」というタイトルで伝えている。多くの環境保護活動家がリベラル派で反権力、反大企業、自然回帰の論を展開する中、ブエノ氏は、環境危機回避の永続的解決策から脱成長を退けているのが特徴だ。
一方でブエノ氏は、特に気候変動の緊急事態に直面した場合、厳しい道が待ち受けていることも認めている。その上で歴史上、文明が滅亡した歴史はほんの数回しかなく、08年のリーマン・ショックは1929年の世界大恐慌を上回る規模だったが、グローバル化したシステムが機能し、世界経済は強力な回復力(レジリエンス)を示したとしている。
化石燃料や金属資源の不足は、代替エネルギーや技術の進歩で代替でき、宇宙資源の採掘も遠い将来ではない。食糧問題では、地球温暖化が赤道に近い地域の農業に壊滅的被害を与える可能性がある一方、年間通じて寒冷で広大な凍土が広がるロシアなどで、温暖化で農業が可能になり、農作物の生産が増える可能性があるとしている。
人口増加も今後、途上国での産児制限が浸透していけば出生率を下げることができ、2080年前に人口増加を単純に3分の1に抑えるだけで人為的な温室効果ガス排出量を約10%削減できるという研究もあることをブエノ氏は指摘している。
無論、もともと大農業国のフランスには自然回帰を訴える脱成長論者も少なくない。実際、新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが浸透し、田舎暮らしは他のEU諸国以上に急増した。空の移動の国内便の大幅削減も大半の国民は支持している。
今回のCOP27で、最も注目されたのは先進国による途上国への温暖化対策への支援拡大だが、途上国への存在感競争を意識する他の主要国首脳と異なり、日本の岸田文雄首相が不参加だったことで、温暖化対策に本気度を示せていないことは気になるところだ。