
【ウィーン小川敏】オーストリアのウィーンで11日、国際連合経済社会理事会の総合協議資格を持つ非政府組織(NGO)、天宙平和連合(UPF)と、モンテネグロ、アルバニアなど西バルカン諸国の大統領経験者でつくる「ポドゴリツァ・クラブ」の共催で、国際会議「西バルカンと欧州連合(EU)の関係、挑戦と展望」が開催され、この地域が抱える問題などについて話し合われた。
ポドゴリツァ・クラブの創始者、モンテネグロのブヤノビッチ前大統領は「西バルカンの安定と繁栄なくして欧州の安定・繁栄はあり得ない。西バルカン諸国が結束して明確なメッセージを発信すべきだ」と訴えた。また、大塚克己UPF欧州会長は「ウクライナの戦争で欧州の平和が破壊されていることに遺憾の意」を表明し、平和を実現するためには対話と相互尊重の精神が重要だと強調した。
また、オーストリアのファスラベント元国防相、アルバニアのモイシウ元大統領、クロアチアのメシッチ元大統領、ボスニアのイバニッチ元大統領、セルビアのシビラノビッチ元外相、コソボのホジャイ元副首相ら大統領や閣僚経験者が参加し、ロシアのウクライナ侵攻後の欧州の安全保障体制と西バルカン諸国の立場について意見を交換した。
イバニッチ氏は「西バルカン諸国は民主主義を体験していない」ため、平和的共存が容易ではないと主張。ホジャイ氏は「ウクライナの戦争は欧州に復興をもたらしている。バルカン諸国も変革の時を迎えているが、過去の未解決の民族紛争がよみがえっているのが現状だ」と述べる一方、「コソボの独立を欧州の5カ国は依然、承認していない」と、欧州側の対応を批判した。
会議では西バルカン諸国のEU加盟への展望、現状についても話し合われ、ブヤノビッチ氏やアルバニアのメイダニ元大統領、クロアチアのコソル元首相、ボスニアのラグムジヤ元首相らのほか、マンドル欧州議会議員らが参加した。
バルカン半島は多民族が交差する地域として歴史的に民族紛争が絶えなかった。冷戦後もボスニア紛争、コソボ紛争が勃発し、多くの犠牲者を出している。西バルカン諸国では、欧州統合に乗り出す一方、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するなど、バルカンの安定構築の動きも見られる。モイシウ氏は本紙に対し「アルバニアにとってはEU加盟が最大の課題。加盟することで過去のさまざまな問題も解決する道が開かれると信じている」と意欲を示した。
セルビアはロシア寄りの姿勢を見せる一方で、EU加盟を模索するダブル戦略を取っている。またモンテネグロのように中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に接近し、中国側の投資に期待する国もあるなど、域内の各国の外交戦略はまちまち。正教(セルビア)、カトリック(クロアチアなど)、イスラム教(アルバニア、ボスニアなど)といった宗教の相違もバルカン諸国の統合を一層難しくしている。