トップ国際欧州バチカン司教任命権移譲問題 中国暫定合意を再延長へ

バチカン司教任命権移譲問題 中国暫定合意を再延長へ

共産党に騙され続ける?

中国のキリスト教聖職者たち=2018年12月、北京(EPA時事)

世界に13億人以上の信者を誇る最大のキリスト教会、ローマ・カトリック教会の総本山、バチカン教皇庁は2018年、中国共産党政権との間で司教任命権問題で暫定合意したが、バチカンは先日、使節団を北京に派遣し、今年10月で期限を迎える暫定合意の再延長で中国側と一致したという。中国共産党政権に司教の任命権を移譲するような暫定合意については、中国内の地下教会関係者から批判の声が上がっている。(ウィーン・小川 敏)

ローマ・カトリック教会の最高指導者といえばローマ教皇、フランシスコ1世だ。それではバチカンのナンバー2は誰かといえば、国務長官のイタリア出身のピエトロ・パロリン枢機卿(すうききょう)(67)だ。そのパロリン枢機卿がイタリアの第2国営放送Rai2のインタビュー(9月3日)の中で、「バチカンは18年9月、司教任命権問題で北京との間で暫定合意した。2年後の20年10月22日に2年間の延長を決めた。そして22年10月、両国は2年間、再延長する予定だ」と答えている。すなわち、暫定合意をこれで2度、延長することになる。暫定合意は恒久的な合意となる可能性が濃厚となってきた。

それでは、バチカンと中国両国間で合意した「18年の暫定合意」が成果を上げたのだろうか。イエスならば、再延長も当然だが、中国のカトリック教会信者を取り巻く「信教の自由」が改善したとは聞かない。状況はむしろ悪化しているからだ。

中国共産党政権の「国家宗教事務局」は21年1月、カトリック教会を含む宗教団体の聖職者を管理統制する新規則(正式名「宗教教職者の行政措置」)を承認し、同年5月1日から発効している。聖職者は共産党政権の管理下にあって、「共産党の指導を支持し、社会主義システムを擁護する」ことが義務となり、その言動は党の統制下に置かれる。

バチカンは中国共産党政権とは国交を樹立していない。中国外務省は両国関係の正常化の主要条件として、①中国内政への不干渉、②台湾との外交関係断絶、の2点を挙げてきた。中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ教皇ではなく、中国共産党政権と一体化した「中国天主教愛国協会」が行い、国家がそれを承認してきた。それが2018年9月、司教の任命権でバチカンと中国は暫定合意し、バチカン・中国共産党政権は関係正常化に前進した、と派手に報道された。

バチカンは「司教の任命権はローマ教皇の権限」として、中国共産党政権の官製聖職者組織「愛国協会」任命の司教を拒否してきたが、中国側の強い要請を受けて、愛国協会出身の司教をバチカン側が追認する形で暫定合意した。これが暫定合意の真相だ。結局、バチカン側が譲歩したわけだ。そのため、暫定合意が報じられると、中国国内の地下教会の聖職者から大きな失望の声が飛び出した。香港カトリック教会の最高指導者を2009年に離任した陳日君枢機卿は当時、「バチカンは中国共産党に騙(だま)された」と警告したほどだ。中国のキリスト教信者を保護するという名目でバチカン側が中国共産党政権に大きく譲歩した合意だからだ。中国には、地下教会に所属するキリスト者の数は数千万人と推定されている。

中国共産党政権下で宗教の弾圧は進行中だ。現地から流れてくる情報によると、キリスト教会の建物はブルドーザーで破壊され、新疆ウイグル自治区ではイスラム教徒に中国共産党の理論、文化の同化が強要され、共産党の方針に従わないキリスト教信者やイスラム教徒は拘束される一方、「神」とか「イエス」といった宗教用語を学校教科書から追放するなど、弾圧は徹底している。

習近平国家主席は「宗教の中国化推進5カ年計画」(18~22年)を表明している。共産党政権が「宗教を完全に撲滅することは難しい」と判断し、宗教を中国共産党の指導の下、中国化する(同化政策)ことがその狙いだ。新疆ウイグル自治区(イスラム教)で実行されている。100万人以上のイスラム教徒が強制収容所に送られ、そこで同化教育を受けている。キリスト教会に対しては官製聖職者組織「愛国協会」を通じて、キリスト教会の中国化を進めている。

バチカンは過去、共産主義に騙されてきた歴史がある。バチカンはウラジーミル・レーニンが主導したロシア革命(1917年)が起きた時、その無神論的世界観にもかかわらず、バチカンでは共感する声が聞かれた。聖職者の中にはロシア革命に“神の手”を感じ、それを支援するという動きも見られた。バチカンはレーニンのロシア革命を一時的とはいえ「神の地上天国建設」の槌音(つちおと)と受け止めたのだ。

21世紀、共産主義の最後の発悪ともいうべき中国共産党政権の世界制覇戦略に対し、バチカンはその悪魔性を世界に知らせるべきだが、中国共産党政権の巧みな交渉に振り回されるなど、バチカンは過去の過ちを繰り返そうとしている。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »