イスラエルのガンツ国防相は19日、米首都ワシントンを訪問し、サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)やオースティン国防長官と会談した。イランの核開発問題やイスラエルの安全保障上の課題などが話し合われた。米国は毎年、イスラエルに巨額の軍事支援を行っており、今年イスラエルは48億㌦(約6120億円)の支援を受けた。(エルサレム・森田貴裕)
ガンツ氏は、サリバン補佐官との会談で、安全保障協力に対する米バイデン政権のコミットメントに謝意を表明し、イランに関して将来のシナリオに備えるために緊密な協力の必要性を強調した。また、イスラエルやパレスチナ自治区ヨルダン川西岸で19人が犠牲となった最近のテロの波について報告し、西岸地区でイスラエル軍が行っているテロリスト掃討作戦は、「イスラエルの国民と主権を守るために必要な措置だ」と強調した。「イスラエル当局は、テロ活動に関与していないパレスチナの民間人に対しては信頼醸成措置を推進し継続している」とも述べた。
バイデン政権は、イスラエル人に対するテロ攻撃を非難したが、イスラエル軍のテロ掃討作戦を取材中に銃弾を受け死亡したカタールの衛星テレビ、アルジャジーラのパレスチナ人女性記者の葬儀中に起きたイスラエル警察とパレスチナ人の衝突に言及し、パレスチナ自治政府との信頼醸成措置を講じる必要があるとしている。
ガンツ氏は、オースティン長官との会談で、イランの核の脅威に対処するために、米国のリーダーシップの下での中東諸国間の同盟の強化や拡大の必要性について話し合った。
この会談に先立ちガンツ氏は17日、ヘルツェリアのライヒマン大学で開催された会議で「イランの核開発は急速な進歩を遂げており、核爆弾製造に十分な高濃縮ウランを取得するまでに数週間となった」と警告。「今現在のイラン核施設への攻撃は、1年後に攻撃するよりもはるかに低コストだ」と述べた。
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は4月、「イランがナタンツ核施設の地下に新たなウラン濃縮施設を建設し、首都テヘラン近郊カラジの核関連施設にあるウランを濃縮する遠心分離機の部品製造をその新施設に移動させた」と述べた。カラジの核関連施設は、昨年6月に妨害攻撃の標的にされ、大きな被害を引き起こした。イラン核開発の主要な拠点であるナタンツ核施設も2度の妨害攻撃を受けており、イランはイスラエルを非難している。
エルサレム戦略研究所のエフライム・インバー教授は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、近い将来にイスラエルが、米軍など外部からの支援をまったく受けずに、単独でイラン核施設を攻撃する可能性があると述べた。「イスラエルは、イランの幾つかの重要な核関連設備の排除が必要なだけで、核インフラすべてを破壊する必要はない」と指摘した。
ガンツ氏は、ヘルツェリアの会議やオースティン長官との会談で、ロシア軍のウクライナ侵攻についても言及し「イスラエルの安全保障上の利益を維持しながら、ウクライナへの人道支援や追加の防衛装備品の提供を行う」と述べている。
それまでウクライナとロシアの両国とは比較的良い関係を維持してきたイスラエルは、2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻して以来、どちら側とも緊密な連携を取ることを避けてきた。しかし、ロシア軍によるウクライナの民間人殺害の報告や、ロシアのラブロフ外相がユダヤ人を弾圧したナチス・ドイツの独裁者ヒトラーには「ユダヤ人の血が流れている」と発言したことを受けて方針を変えたようだ。ロシアのプーチン大統領がラブロフ氏の発言について謝罪したが、イスラエルは西側諸国とより歩調を合わせるようになった。イスラエルは、これまでのところウクライナへの軍事支援は断固として拒否しているが、代わりに人道支援や救急隊が使用する防衛装備品の支援などを行っている。
ロシアの軍事支援を受けるシリアでは、依然としてイスラエル軍によるとみられる親イラン派武装組織に対する空爆も続いており、今後のロシアとイスラエルの関係悪化が懸念される。