
大統領選が終わったフランスは、次は6月の国民議会(下院)選挙を控えている。大統領選を含め、フランスの政治状況は大きなターニングポイントを迎えている。大統領選で保革大政党が大敗したことは一時代の終わりを感じさせた。失業、移民、治安、景気回復という30年以上抱え込んだテーマに対して、仏国民は政治にどんな期待を持っているのだろうか。(パリ・安倍雅信)
24日に実施されたフランス大統領選は現職中道のエマニュエル・マクロン氏が勝利して終わった。前回2017年の決選投票と顔ぶれは同じだが、政治状況の変化は大きく異なった。6月に予定される下院選挙も注目される。
今回の大統領選では、有権者の既存の保革大政党離れが顕著だった。もはや有権者は政党で候補者を選ぶことは党員を除いてはしないことがはっきりした。さらに2018年秋以降本格化し、今も継続している左派労組などが主導する反政府の「黄色いベスト運動」にもかかわらず、左派は急進左派のメランション候補を除き、大敗を喫した。

「右派の選挙」とまで言われ、右派系候補は「国民連合」(RN)のルペン氏を含め、第1回投票で右派の4人の候補者で37%を占め、中道のマクロン氏を加えれば65%に達した。一方、乱立した左派候補は全員で35%しか得票できず、そのうち、急進左派の不屈のフランスのメランション氏が21・95%を占め、左派最大勢力の社会党(PS)を含め他の左派候補は大敗した。
フランスはなぜ、これほどのかつてない右旋回をしたのか。そこにはいくつかの要因がある。一つはマクロン政権前の2017年まで5年間政権にあったPSが主導するオランド左派政権で、失業と移民というフランスが抱える二大政治テーマで成果を出せなかったことが尾を引いている。
特に国民生活に直接影響する失業率は30年以上、10%前後に高止まりし、2012年から2017年のオランド政権では、一時は10%を超え、若者の失業率は30%近くにまで達した。富裕層への高率課税政策などで企業、富裕層が英国やベルギーに逃げ、政権最終盤の大統領の支持率は歴代最低の16%にまで落ち込んだ。その後遺症は今もある。
今回の大統領選第1回投票で左派を代表するPS指名候補イダルゴ氏は歴代最低の1・75%の得票率を記録し、PSの一時代が終わった感もあった。6月の下院選挙で議席をどれだけ確保できるか注目されている。
一方、ドゴール主義を受け継ぐ最大野党の中道右派・共和党(LR)は、前身の国民運動連合、共和国連合時代からシラク、ジュペ、バラデュール、ラファラン、サルコジ氏ら歴代大統領、首相を送り込んだ保守本流の政党だ。そんな共和党の指名候補のペクレス氏は今回の大統領選第1回投票で得票率5%を割り込み選挙運動の供託金没収となった。
LRの葛藤は、移民増加による社会の不安定化や治安悪化を受け、RNの支持率が伸びたことでLRの支持基盤が揺らいでいることだ。
コロナ禍で経済が減速し、雇用が増えず、今年に入り、ウクライナ戦争の影響もあり、エネルギー価格を含め、物価が上昇する中、国民の関心は景気回復にあることは明白だ。どの政治家が庶民の生活を最優先に考えてくれるのかに関心が集まるのも当然といえる。これは6月の下院選挙も同じことがいえそうだ。
無論、ウクライナ危機に対処するため、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)加盟国との連携は必要不可欠だ。フランスでは大統領は国の存在感を世界にアピールする外交を担い、首相が内政を担当するという暗黙の慣習がある。そのため大統領選に関してだけ言えば、「国家の顔」にふさわしい人物を選ぼうとするといわれる。
その意味で所属政党より人物で選ぶ傾向が強く、今回も二人の候補者に向けられる国民の目には、フランスの存在感を世界に示してくれる人物はどちらかという選択の選挙だった。マクロン氏が再選されても、第1期より大胆な改革を行うだけの議会の支持を得られない可能性は強く、ルペン氏を選べば、極右のイメージが付きまとうことへの懸念があった。
フランス人有権者が大統領選と総選挙、統一地方選挙、欧州議会選挙で異なった顔を見せる傾向がある。右旋回も修正される可能性はあるが、過去にない不確実な状況に極度の不安を感じる有権者は多い。フランスの苦悩は今後も続きそうだ。