トップ国際欧州対露友好揺らぐセルビア ウクライナ侵攻 ブチッチ氏大統領再選も股裂き状態

対露友好揺らぐセルビア ウクライナ侵攻 ブチッチ氏大統領再選も股裂き状態

制裁は参加せず、EU加盟推進

3日、ベオグラードで、支持者を前に笑顔を笑顔を見せるセルビアのブチッチ大統領(EPA時事)

バルカンの盟主セルビアで大統領選が行われ、ブチッチ大統領(52)が再選を決めた。ロシアのプーチン大統領は早速ブチッチ大統領に祝意を伝えるなど、セルビアとの伝統的な友好関係を確認した。ただ、ロシア軍のウクライナ侵攻以来、伝統的に友好関係を続けてきたセルビアとロシア両国関係が揺らぎ始めている。(ウィーン・小川 敏)

セルビアで3日、大統領選、国民議会選、地方自治体選がそれぞれ実施された。ブチッチ大統領が、第1回投票で再選(任期5年)を果たし、議会選(一院制、定数250)でも同大統領が率いる与党「進歩党」(SNS)が第1党の地位を堅持した。

セルビアの与党の勝利が伝わると、プーチン氏はブチッチ氏に「ロシア人とセルビア人は兄弟国民だ」と呼び掛けるなど、セルビアの選挙結果を喜んだと報じられた。

ブチッチ氏は、プーチン氏とは親密な関係だ。ロシアからは経済的、軍事的支援の他、天然ガスや原油の供給を受けている。ロシアは、セルビアから離脱したコソボ自治州の国家承認を拒否し、セルビアを支援してきた。

セルビアは伝統的に親ロシアで同じスラブ系だ。その上、主要宗派のセルビア正教会はロシア正教会とは密接なつながりがある。その一方、コソボ紛争(1999年)で北大西洋条約機構(NATO)のベオグラード空爆を体験したこともあって、国民の間には反NATO、反米傾向が強い。

ロシア軍がウクライナに侵攻すると、ベオグラードで親露デモが行われ、反NATOのスローガンが響き渡った。スイスの高級紙ノイエチュルヒャーツァイトゥングは、「ロシアをこれほど支持してくれる国は欧州ではセルビア以外にない」と評したほどだ。

ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、選挙戦ではウクライナ問題が焦点となった。ブチッチ氏は、ロシアと伝統的な友好関係を維持するか、加盟を模索している欧州連合(EU)との関係を重視するかで苦慮したはずだ。ブチッチ氏は、欧米の対ロシア制裁には参加せず、EU加盟を推進する一方、親ロシア政策を堅持する東西バランス外交を推進してきた。

ただ、3月2日の国連総会緊急特別会合では、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議に賛成を投じた。

賛成票を投じた背景には、①総会決議は法的拘束力がない②2014年からEUの加盟交渉中であることがある。EUは米国と共にロシア軍のウクライナ侵攻に対し厳しい制裁を実施中だ。ロシア決議案に反対したり、棄権すればブリュッセルから厳しい追及が出てくることが考えられる。

一方、プーチン氏は、ロシア軍の民間人無差別殺害などでバイデン米大統領から「戦争犯罪人」と呼ばれている。そのため、ブチッチ氏はウクライナ危機で中立的な態度を維持できなくなっている。

プーチン氏とこれまで通りに友好関係を維持するか、セルビアの最大の貿易相手のEUへの加盟を優先し、プーチン氏とは距離を置くかの、どちらかを決定しなければならない時がきている。

欧州諸国からは政治圧力が強まっている。ドイツのベーアボック外相は3月11日、「この紛争では誰も中立であることはできない」と警告し、セルビア訪問ではブチッチ氏に明確な立場を求めた。また、オーストリアのネハンマー首相は3月17日、セルビアを訪問し、「欧州にとって非常に重要なバルカン地域をロシアに任せてはならず、この地域が不安定になることを許してはならない」と話した。

ロシアはソビエト社会主義共和国連邦の解体(1991年)後の後継国であり、セルビアは解体したユーゴスラビア社会主義連邦共和国の中心国家だったという点で似ている。両国は連邦時代への回帰の思いが払拭できない。その意味で、ウクライナ侵攻がセルビアの民族主義者をあおる危険性も排除できない。

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