10日に行われたフランスの大統領選挙は、現職中道のマクロン大統領と右派・国民連合(RN)を率いるルペン候補が決選投票に進む。ウクライナ危機による安全保障、エネルギー危機の中、3割の有権者がギリギリまで支持者を決めかねた前代未聞の選挙でもあった。(パリ・安倍雅信)
決選投票は前回2017年と同じ顔触れだが、投票直後に公共放送フランス2が伝えた得票率予測では、両候補とも5年前の第1回投票を上回った。マクロン氏はロシアのウクライナ軍事侵攻への対処で選挙戦に出遅れ、ルペン氏は極右のゼムール候補の登場で右派票を奪われる中での善戦だった。
最も大敗したのは、オランド前政権を担った社会党のパリ市長のイダルゴ候補で2%を割り込み、中道右派・共和党のペクレス候補も5%を割り込み、かつての左右の既存大政党の衰退が明らかになった。決選投票に進めなかった急進左派メランション候補は10日夜、「全ての有権者はルペン候補に投票しないように」と呼び掛けた。
ウクライナ危機で外交を担う現職大統領のマクロン氏には追い風と言われた選挙だが、終盤に米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーなどへの政府支出が10億ユーロ(約1350億円)に達し、同社の脱税疑惑も浮上。以前からあった富裕層優先のイメージが強まったことで伸び悩んだ。
ルペン候補は、移民政策に対する国民投票を呼び掛けており、高騰する物価やガソリン代を徹底して抑える政策を打ち出し、決選投票に進むことが確定した10日夜の演説で「RNだけでなく、全ての国民のための大統領になることを誓う」と述べ、幅広い層の支持を得ることに意欲を見せた。
そのルペン氏は、過去にRNが国内金融機関から資金調達できず、ロシアの金融機関から借り入れ、今も返済が続いていることや、プーチン露大統領を「敵視すべきでない」などの発言がマイナスに働いているとされる。さらに北大西洋条約機構(NATO)からの脱退も主張し、ウクライナ情勢でNATOの重要性が増したことも逆風となった。
今後は極右の血を引くRNのルペン候補の当選阻止で、左派だけでなく、右派や中道右派がマクロン氏への投票に動く可能性が高い一方、ゼムール陣営は10日の投票終了後、支持者に対して、ルペン候補への投票と右派の結束を呼び掛けている。さらに第1回投票で投票に迷った有権者、中道右派陣営が、どの程度ルペン氏に投票するか仏メディアも予測が困難としている。
左派は決選投票までの2週間、ルペン候補当選阻止のために、反政府運動を展開してきた黄色いベスト運動を中心に、大規模なデモを準備している。一方、右派も公正な選挙を訴え、集会を準備しており、荒れた決選投票になることも懸念されている。