フランスの大統領選まで2週間を切り、現職のマクロン大統領の優勢が伝えられている。世論調査で2番手に付けている右派・国民戦線(RN)のルペン候補が追い上げる中、ウクライナ危機がマクロン氏優勢をもたらしていると指摘する政治アナリストも多い。内政中心といわれる大統領選には珍しく対外政策に有権者の関心が高まっている。
(パリ・安倍雅信)
右派の合従連衡次第で大勢
5年前の2017年のフランスの大統領選挙では、中道のマクロン現大統領と右派のマリーヌ・ルペン候補で決選投票が争われた。大半の予想では同じ候補者が決選投票に進む可能性が高まっている。4月10日に第1回投票が行われる大統領選の最新の世論調査はマクロン氏が30%に迫る勢いで、ルペン氏は20%足らずで続いている。
第1回投票で過半数を得る候補者がいない場合、上位2人が第2回投票に進む制度だが、フランスの政治は過去には右派と左派の戦いだった。2002年の大統領選挙では右派・国民連合(前国民戦線)の創設者、ジャンマリ・ルペン党首(当時)が決選投票に進み、中道右派のシラク氏と戦う異例の事態となった。
フランスは時計の振り子のように右派と左派が交代で政権を担うのが常だったが、2017年までの5年間のオランド左派政権で、左派離れが加速し、今回の選挙では左派に勢いはない。理由は左派が最も重視する失業率を抑える公約が一度も守られなかったからだ。
同時に既存の左右の大政党である中道右派の共和党(LR)と中道左派の社会党(PS)が支持率を落とし、マクロン現大統領が創設した中道の共和国前進(REM)に支持が集まる新しい政治地図となったのが、前回2017年の選挙だった。
有権者の大政党離れは今も大きくは変わっておらず、今回の大統領選挙では無所属の単独候補、元ジャーナリストのエリック・ゼムール候補が一時はルペン氏を抜く勢いを見せ、フランスを根本的に変えてくれる政治指導者を有権者が望んでいることも垣間見えている。
理由は、あまりにも増えた北アフリカからのイスラム系・アラブ系の移民によって、フランスがナポレオンの時代から構築してきた社会規範に基づいた自由と民主主義、成熟した近代市民社会が崩壊の危機にあると有権者が感じていることが挙げられる。
記者が取材したゼムール支持者は、ゼムール氏がフランスの歴史に精通しており、フランスの伝統的価値観で国家を再建してくれるという期待感が非常に強くあることだ。ゼムール支持者で退職生活を送るルビルワ氏は「今、フランスを再建しなければ、2度とフランスを取り戻すことはできない」と強い危機感を訴えた。
しかし、ウクライナ危機に対してゼムール氏は失言が多く、そもそも移民、難民受け入れに批判的だった極右は、ウクライナ難民受け入れの議論で劣勢に立たされている。大半のフランス人がウクライナ避難民の受け入れに積極的だからだ。
同時にウクライナに軍事侵攻したロシアに対して、欧州連合(EU)及び北大西洋条約機構(NATO)は結束を強化している。EU懐疑派の右派候補には分が悪い。欧州危機を肌身で感じる有権者は、マクロン氏が従来から主張する欧州独自防衛論に好感を持ち、欧州は結束してウクライナ危機に取り組むべきだという機運が高まっている。
ルペン候補は24日、民放TV・M6に出演し、同じ右派のゼムール候補の支援に言及した。右派の選挙といわれる今回の大統領選は中道から極右までの候補者が優勢で、ルペン候補が決選投票に進んだ場合、マクロン氏に勝つためには右派の結集が不可欠だ。
最新の世論調査では、ウクライナ危機が有利に働いているといわれるマクロン氏に投票すると答えた有権者は29・5%で5年前の大統領選の第1回投票の時の数字をはるかに超えている。それを追うルペン氏は19%で追い掛ける展開だ。
今回、大統領選への国民の関心は高い。英国のEU離脱、ウクライナ危機で状況が激変する中、EUは結束するしかない方向にある。EUは各加盟国の国防予算の増強で合意し、自主防衛への一歩を踏み出そうとしている。欧州危機の中、今年前半のEU議長国でもあるフランスが国家としての存在感を示せる大統領が求められているといえそうだ。