ユダヤ移民受け入れ用意も
ウクライナとロシアとの間で軍事的緊張が高まっていることから、イスラエルのベネット首相は12日、外交、国家安全保障当局者らを招集し緊急会議を開いた。ベネット氏は「ウクライナとロシアの国境の緊張がどのように展開するかは依然として不明だ。世界の他の地域と同様に、緊張がエスカレートすることなく終わることを願う」と述べ、ウクライナに在住するすべてのイスラエル人に対し、直ちに国外へ退避するよう呼び掛けた。(エルサレム・森田貴裕)
シリア情勢にらみ紛争関与には慎重
イスラエル政府は13日、ウクライナに駐在するイスラエル大使館職員や外交官の家族を帰国させた。大使館での業務が継続できるよう、イスラエルから追加の職員が派遣された。ガンツ国防相は、ロシア軍がウクライナに侵攻した場合にイスラエル人を避難させる必要があることから、イスラエル軍に避難者輸送の準備を命じた。
現在、ウクライナにはイスラエル人が1万~1万5000人いると推定されている。そのほとんどが首都キエフに住んでおり、うち2000人は主にアラブ人の学生だ。13日の時点で約6500人がイスラエル大使館に登録し、送られてくるテキストメッセージで最新情報を入手している。イスラエルの航空会社エルアル、イズレール、アルキアが、イスラエル人の退避を支援。週32便に増便し避難者の出国を急いでいる。
ウクライナには、まだイスラエル国籍を持たないユダヤ人が20万人近くいるとされ、うち約7万5000人がウクライナ東部に住んでいる。イスラエル政府高官によると、これらのユダヤ人は帰還法に基づいてイスラエルに移住する資格があるという。シャイ・ディアスポラ問題相は12日、ロシアの侵攻に備えて、ウクライナからのユダヤ人緊急移民計画を準備する必要があると述べた。タマノシャタ・イスラエル移民問題相は、「ユダヤ人避難者は数千~数万人になる可能性がある」と述べ、移民の増加に備えるよう関係省庁に指示した。
イスラエルのテレビ「チャンネル12」は、ベネット氏が閣僚らに対し、ロシアとウクライナの紛争について公にコメントすることを控えるよう指示したと報じた。イスラエル軍はシリア領内で親イラン武装勢力を標的とした攻撃を続けているが、シリア内戦でアサド政権を支援するロシアはこれを黙認している。イスラエルとしては今後も、このロシアとの良好な関係を維持したいところだ。
ウクライナのジャパロワ副外相は13日、エルサレムでラピド外相と会談し、ウクライナ情勢をめぐる軍事的緊張がさらにエスカレートした場合、イスラエルへの穀物の輸出が減少する可能性があると警告した。イスラエル国内におけるパンの供給が半分になる可能性もあるという。
ラピド外相は13日の記者会見で、イスラエルがロシアとウクライナの紛争に関与しない理由について「ロシアにもウクライナにも大規模なユダヤ人コミュニティーがあり、両国間の武力衝突を防ぐため慎重に行動している」と述べた。
イスラエルのメディアによると、ウクライナに住むほとんどのイスラエル人は、ロシアの侵攻が差し迫っているとは信じておらず、緊急に避難するという感覚はないという。
家族がいない現役イスラエル軍兵士を支援する組織「アフガドール」の創設者であるアハロン氏は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「現在のところウクライナに住むユダヤ人の間で、イスラエルへの移民の申し込みが増加しているという話を聞いていない」と述べた。
ウクライナからイスラエルに移民したポポバ氏は、メディアラインで、「ウクライナ人の間では意見が分かれており、一部の人々、特にウクライナ東部の人々は本当に心配しているが、その他の地域の人々はそれが政治的操作で中身のない空の脅威と考えている」と述べた。
ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を認めないロシアは、ウクライナ東部の国境付近や北側のベラルーシに大規模部隊を配備し、ウクライナ南部に面する黒海にはバルト艦隊と北方艦隊の軍艦を派遣している。米メディアでは、ロシアがすぐにも侵攻すると報じられているが、侵攻となればイスラエルが輸入する穀物が減少する恐れがある。