フランシスコ教皇の意向が反映か
ローマ教皇フランシスコの最側近の一人、ドイツのローマ・カトリック教会ミュンヘン大司教区のラインハルト・マルクス枢機卿(すうききょう)が、聖職者の独身制廃止を訴えたことが、独教会ばかりか、世界のカトリック教会に大きな波紋を投げ掛けている。
(ウィーン・小川 敏)
過去には聖職者の内縁関係も
マルクス枢機卿(68)は南ドイツ新聞(SZ、2月3日付電子版)とのインタビューで、「聖職者の強制的な独身制は廃止すべきだ。セクシュアリティーは人間性の一部であり、決して過ぎ去るものではない」と指摘した。
マルクス枢機卿はフランシスコ教皇を支える枢機卿顧問評議会メンバー(現在7人構成)の1人であり、教皇の信頼が厚い。教会の改革に専念するフランシスコ教皇の意向が反映していると受け取って間違いないだろう。
同枢機卿は、「現在のようなやり方(聖職者の独身制義務)はもはや続けられない」と強調するが、聖職者の独身制の全面的廃止を求めているわけではない。聖職者に婚姻するか独身でいるかの選択権があるべきだというわけだ。
バチカンで2019年10月、アマゾン公会議が開催され、女性聖職者問題、既婚男性の聖職叙階問題などが話し合われた。最終報告書には「遠隔地やアマゾン地域のように聖職者不足で教会の儀式が実施できない教会では、司教たちが(相応しい)既婚男性の聖職叙階を認めることを提言する」と明記されていた。ただ、同提言は聖職者の独身制廃止を目指すものではなく、聖職者不足を解消するための現実的な対策の印象が否めない。
実際、最終文書では「聖職者の独身制は神の贈り物」と改めて強調する一方、「多様な聖職者は教会の統一を損なうものではない」と説明している。アマゾン公会議の既婚男性の「聖職叙階」提言は聖職者の独身制廃止への第1弾と受け取られ、独身制が近い将来、廃止されるのではないか、といった期待の声が聞かれた。
カトリック教会の独身制に神学的なバックボーンはない。ただ、「イエスがそうであったように、あなた方も…」といった程度だ。旧約聖書「創世記」を読めば、神は自身の似姿に人を創造され、アダムとイブを創造された。その後、彼らに「生めよ、ふえよ、地に満ちよ」(第1章28節)と祝福している。独身制は明らかに神の創造計画に反しているわけだ。野生動物学のアンタール・フェステチクス教授は、「カトリック教会の独身制は神の創造を侮辱するものだ」と言い切っている。
キリスト教史を振り返ると、1651年のオスナブリュクの公会議の報告の中で、当時の多くの聖職者たちは特定の女性と内縁関係を結んでいたことが明らかになっている。カトリック教会の現行の独身制は1139年の第2ラテラン公会議に遡(さかのぼ)る。聖職者に子供が生まれれば、遺産相続問題が生じる。それを回避し、教会の財産を保護する経済的理由があったという。
マルクス枢機卿はアマゾン公会議で既婚の聖職者について、「聖職者が不足している地域での独身制の撤廃は想像できる」と語っていたが、今回のように「婚姻に対する聖職者の選択権」まで踏み込んだ発言は初めてだ。
その背景には、1月20日に公表されたミュンヘン大司教区とフライジンク司教区の聖職者の未成年者への性的虐待報告書とも関連していると推測できる。同枢機卿は「聖職者の独身制」と未成年者への「性的虐待問題」との関連については、「関連があると一般的には答えられない。ただ、独身制と男性だけの世界に引かれる人々がいることは事実だ」と説明するのに留めている。
女性聖職者問題では、「今後とも議論を重ねていくべきだろう。この問題にはコンセンサスが必要だ、さもなければ全ての建物が壊れてしまう。ただ、時間の経過とともに『それは不可能だ』といった声は弱くなってきているのを感じる」と言う。