トップ国際欧州仏大統領選 原発争点化 EU全域の問題にも

仏大統領選 原発争点化 EU全域の問題にも

マクロン氏現行維持、右派が支持 全廃方針の左派 世論は賛否拮抗

今年4月に予定されるフランスの大統領選の争点の一つに原発問題が浮上している。代替エネルギーに懐疑的な右派、中道のマクロン大統領も原発支援の立場だ。全電力の約70%を原発に依存する原発大国フランスの次の選択は、欧州連合(EU)に大きな影響を与える。今年、原発全廃を予定するドイツと対照的な政治の争点として注目されている。(パリ、安倍雅信)

マクロン大統領(AFP時事)

フランスの原発問題は一国の課題にとどまらない。EUの執行機関である欧州委員会は今年1月1日、持続可能な経済活動を分類する制度である「EUタクソノミー」に合致する企業活動を示す補完的な委任規則について、原子力や天然ガスを含める方向で検討を開始したと発表した。

この動きに対して、今年原子力発電の全廃を完了予定のドイツ政府は1月22日に原子力と天然ガスを投資促進リストに加えることへの正式な反論書を提出した。オーストリア、ルクセンブルクも反対している。一方、原発依存度の高いフランス、フィンランド、チェコが支持を表明し、マクロン仏大統領はその先頭に立っている。

気候変動対策の優等生を自認するEUは、昨年7月、2050年までにカーボンニュートラル達成方針を発表。石炭発電の全廃、原発の最小化に動く一方、代替エネルギー移行が十分でない中、天然ガスでつないでいく予定だ。その天然ガスもウクライナに軍事的脅威を与えるロシアからの供給の依存度が増し、バイデン米政権から批判を浴びている。

電力の約70%が原子力から供給されるフランスは、第2次世界大戦後にド・ゴール大統領が原子力産業の推進を後押しして始まった。ドイツのような反原発運動は低調な一方、核武装を含め、自国の安全保障重視のため、エネルギー自給率を高めることで左右の政治勢力に深刻な対立はなかった。

ただ、今日のフランスの原子炉のほとんどは古く、ノルマンディーの最新型の発電所フラマンビル3号機(165万キロワット級)の欧州加圧水型原子炉(ERP)は、18年末に稼働予定だったのが、稼働に至っていない。20年のフランスの電力構成に占める原子力の割合は、1985年以来の最低レベルに低下している。

15年、長い議論の末、25年までに原発シェアを75%から50%にし、原発設備の発電量を6320万キロワットに制限する「緑の成長に向けたエネルギー移行法」をオランド前政権が成立させた。

しかし、マクロン現大統領は18年11月に、発電シェアの削減公約を「現実的で制御可能、経済的かつ社会的にも実行可能な条件下で達成するため、実施期限を35年まで10年先送りする」と決定した。さらに昨年10月、「30年までに10億ユーロ(約1300億円)を投じて、小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉の技術を実証し、放射性廃棄物のより良い管理で世界市場への参入を目指す」と表明した。

原子力は、フランスにとって基幹製造技術の一つであり、今後も必要な技術という認識だ。そのため原子力産業の再編は政策目標の第一に位置付けられた。継続的に開発していくことを最重視する方針の背景には、原発の世界市場での競争が念頭にある。

ところが、4月の大統領選挙が近づくにつれ、石油価格が高騰し、ウクライナ危機に迫る中、プーチン露大統領は欧州の供給する自国の天然ガスを外交の道具に使っている。エネルギーの安定供給は産業や市民生活だけでなく、国の安全保障にも直結するため、有権者は高い関心を寄せている。

現時点では、大統領選に立候補を表明している右派・国民連合のルペン党首、極右独立候補のゼムール氏共に、原発擁護を表明する。

一方、極左「不屈のフランス」のメランション候補は、45年までに原発完全放棄を主張し、左派・社会党のイダルゴ現パリ市長は「責任ある方法での原発全廃」を主張している。その他の左派候補も同様な主張をしている。

未だ大統領選への正式立候補を表明していないマクロン大統領だが、気候変動対策で指導力を発揮する発言が目立ち、この数カ月はフランスの競争力を持つ強力な原子力産業の活性化に対する強い意志を表明している。最大野党・中道右派の共和党の候補者ペクレス氏はマクロン氏の原発政策に支持を表明した。

専門家は大統領選の決選投票で原発政策は大きな争点となり得ると指摘している。実際、昨年10月の世論調査で、原子炉の建造賛成は51%、反対は49%で拮抗している。

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