トップ国際欧州・ロシア【連載】侵攻4年 出口なきウクライナ戦争(2)ロシアの「割に合わない戦争」

【連載】侵攻4年 出口なきウクライナ戦争(2)ロシアの「割に合わない戦争」

ロシアのプーチン大統領(右)とゲラシモフ軍参謀総長=ロシア大統領府が 2025 年 11 月 20 日に通信アプリ「テレグラム」に投稿した動画より(AFP時事)
ロシアのプーチン大統領(右)とゲラシモフ軍参謀総長=ロシア大統領府が 2025 年 11 月 20 日に通信アプリ「テレグラム」に投稿した動画より(AFP時事)

 ロシア軍が投入した兵力と戦費は莫大(ばくだい)だ。ロシア軍の死傷者数は2025年6月時点で100万人に達したと推定されている。そのうち死者・行方不明者は約25万人。これは第2次世界大戦後のロシア(ソ連時代含む)が経験した紛争の中で最多だ。ブルームバーグ通信やウクライナ軍参謀本部の情報によると、ロシア兵の死傷者数は今年1月だけで3万~4万人になるという。その数はソ連軍のアフガニスタン戦争(1979~89年)より多い。

 戦争の長期化に伴い、ロシアは国防費を大幅に増額している。25年の連邦予算は、国防費が歳出全体の3割以上(約13兆4900億ルーブル、日本円で約20兆円)を占め、10兆ルーブルの大台を初めて突破した。戦費以外にも、武器輸出の損失や、3000両以上の戦車喪失など、装備の損失も発生している。

 ロシアの当初の目標は、首都キーウを速やかに制圧し、親露政権を樹立してウクライナ全土を支配することだったが、その目的は達成されず、戦争は長期化している。

 欧州の軍事専門家やアナリストは、ウクライナ侵攻を「ピュロスの勝利」と分析している。紀元前3世紀初頭にギリシャのエペイロス王国を治めたピュロス王は優れた軍事指揮官で、ローマ軍との戦いで勝利を収めたが、甚大な犠牲を払ったことから、「割に合わない勝利」という意味で「ピュロスの勝利」という表現が生まれた。ロシアはウクライナ領の一部を新たに占領したが、当初の戦略目標の失敗、国際的孤立、回復困難なほどの甚大な経済的損害を被っており、得られた利益と犠牲は釣り合っていない。ロシアは国際社会から激しい経済制裁を受け、外交的にも孤立している。

 一方、ウクライナも多くの死傷者を出してきた。ゼレンスキー大統領は、仏公共放送フランス2のインタビューで、侵攻開始以来、自国軍の公式戦死者数を5万5000人と発表した。さらに、多数の行方不明者がいる。

 米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書は、22年の侵攻開始以降今年1月末までにウクライナ国内だけで10万~14万人のウクライナ兵が死亡したと推定している。さらに、最大50万人が負傷した。

 ロシアのプーチン大統領は、ウクライナとの戦争を単なる政治的紛争ではなく、キリスト教の価値観を守るための「聖戦」と主張している。西側諸国を「世俗化し、サタン(悪魔)主義に陥った存在」と定義し、ロシアをそれに対抗する「神聖な法の守護者」と位置付けている。プーチン氏は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシは共通の信仰(正教)と歴史を持つ「一つの民族」であるという「ルースキー・ミール」(ロシアの世界)という概念を信奉している。

 ウクライナを独立国ではなく、ロシアの「精神的な空間」の一部と見なしているため、侵攻を「同胞を悪の影響から救い出し、本来の精神的一体性を取り戻すための行為」として正当化しているわけだ。

 ゼレンスキー氏が提示した20項目和平案の成功の可能性は、現時点では非常に低い。領土問題(クリミア、東部地域)とウクライナの安全保障問題など核心部分でロシア側との隔たりが大きいからだ。和平交渉を成功させるためには、米欧の「安全の保証」の具体化とロシア側の譲歩が不可欠だが、現状は双方の要求が真っ向から対立している。

 出口戦略のないプーチン氏の戦争はウクライナだけでなく、ロシアをも復興不能なまでに荒廃させている。

(ウィーン小川 敏)

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