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ロシア、長期戦に備え 国内の締め付け強化-ウクライナ侵攻

モスクワ郊外の公邸で安全保障会議を開くロシアの プーチン大統領=8月16日(AFP時事)

ロシアによるウクライナ侵攻は、和平に向けた兆しが一時見えたものの、ウクライナに隣接するロシアのクルスク州への越境攻撃を受け、頓挫した。クレムリンは長期戦に向けた備えを強める一方、国内では防諜(ぼうちょう)組織の再編などを進め、締め付けを強化する構えだ。(繁田善成)

長期化するウクライナ侵攻ではあるが、和平に向けた兆しが何度か見えたことがある。今年の夏もそうで、侵攻が半年から1年以内で終結する可能性が指摘された。ウクライナのゼレンスキー大統領のレトリックの軟化や、ロシア、米国、欧州連合(EU)諸国によって行われた大規模な捕虜交換が、そのシグナルだった。

捕虜交換については、ドイツで服役していたロシア連邦保安局ワジム・クラシコフ元大佐を取り戻したいという、ロシアのプーチン大統領の強い要望があり実現したものだ。クラシコフ元大佐は2019年、ベルリンで、亡命中だったロシア南部チェチェン共和国の元戦闘員の男性を殺害し、終身刑の判決を受け服役していた。そのような事情があったにせよ、捕虜交換などの交渉が行われたこと自体が、和平交渉に向けた「有益な先例」だ。

また、ロシア軍とウクライナ軍は、エネルギー施設への攻撃を相互に制限することで、ほぼ合意に至っていた。ロシアでは石油精製設備の約15%が停止しており、ウクライナの状況はさらに悪い。両国ともこのまま冬を迎えれば、暖房用燃料がさらに逼迫(ひっぱく)し、国民生活に多大な影響を与えることになる。ロシアとウクライナは8月22、23日にカタールで予定されていた会合で、一定の合意を目指していた。

米ワシントン・ポスト紙はウクライナ情報筋の話として、ウクライナが8月、ロシア・クルスク州に越境攻撃を行ったことで、会合は頓挫したと報じた。ロシア、ウクライナとも公式に、交渉の事実を否定している。

クルスク州への越境攻撃で、ロシア軍が占領された領土を奪還するために主力部隊を差し向けなかったことについて、ゼレンスキー大統領は「プーチン大統領は自国の領土を守るために力を尽くさないという真実を、ロシアの人々に示した」と批判した。実際、ロシアはウクライナによる越境攻撃を半ば無視し、ウクライナのドネツク方面への攻撃を続けた。

ゼレンスキー大統領は、欧米が供与した長射程兵器によるロシア領直接攻撃を許可するよう、米国に要請した。これを受けプーチン大統領は9月25日、核抑止力に関する安全保障理事会で、ロシアの核ドクトリンの改定を発表した。今後、核兵器を持たない国家によるロシアへの侵略について、核保有国の支援または参加がある場合は、共同攻撃と見なすという。

欧米首脳はこの脅しを自制的に受け止めたが、これによりウクライナに対する支援が弱まるのでは、という懸念が出ている。ウクライナの兵力は枯渇しつつあり、一方でロシアは長期戦の準備ができている。

戦争開始以来、ロシアの軍事支出は3・5倍以上に増加し、治安部隊への支出と合わせると、国家予算の約40%に達した。来年度の軍事予算は13兆5000億ルーブルで、ロシアの国内総生産(GDP)の約6・2%に相当する。ロシア政府は軍需産業への発注を大幅に増やしており、これがロシアに経済成長をもたらした。しかし、ロシア経済全体を見れば、その29・4%を占める貿易、社会サービス、文化・スポーツ、レジャーなど六つのセクターは、ウクライナ侵攻開始以降、縮小が続いており、国民の生活の質は明らかに低下している。

そのような中でプーチン政権は、国民監視をさらに強化する動きに出ている。第2次世界大戦中に暗躍した防諜組織「スメルシュ(スパイに死を、の意)」の復活や、子供のいない人に対する課税の導入(ソ連時代に出生率を向上させるために制定された)について、下院で審議が進んでいる。

プーチン政権の政策は、ソ連時代を彷彿(ほうふつ)させるものだ。これまでは、ソ連時代後期の幾つかのシンボルや、慣習を復活させようという動きだったが、現在では、全体主義が急速に広がった1930年代から第2次世界大戦ごろのソ連を復活させようという動きがみられる。

ソ連は米国との軍拡競争に耐えられず崩壊に至った。プーチン大統領は、民生部門の発展を損なう経済の軍事化が、この国にとって致命的な結果をもたらすことを理解すべきだ。

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