【パリ安倍雅信】長年、欧州連合(EU)の牽引(けんいん)役であったドイツとフランス両国が影響力を弱めている。
EU最強の経済大国ドイツは、自動車産業で売上高のほぼ3分の1を中国市場で稼いでいる。これを守るためショルツ首相は、中国から輸入する電気自動車(EV)に追加関税を課す欧州委員会の提案に反対した。中国側からの対抗措置を恐れてのことだ。
対中貿易の歴史が長いドイツで、先駆けて中国進出を果たしたフォルクスワーゲン社だが、中国製EVが今日、ドイツ市場を席巻し、その影響を受けて戦後初めて国内工場の一部が操業停止に追い込まれている。
ドイツはメルケル前政権の時、中国と良好な経済関係を築いていたが、社民党、緑の党、自由民主党の3党連立となったショルツ現政権は意思決定プロセスが遅く、対中国への関税措置でも意見が分かれている。
貿易ではフランスにとっても得意先である中国が、仏製シャンパンへの追加関税を表明し、仏政府は国内の生産者から突き上げにあっている。
フランスは、今年6月の欧州議会選と7月の下院選で政治的に混乱し、特にEUで定める財政赤字の基準をはるかに超えており、立場を悪くしている。英国が2020年にEUを離脱して以降、経済力でドイツに次ぐフランスだが、ロシア・ウクライナ戦争、また対中国政策でも説得力を弱めている。
フランスのEUへの影響力は今年、欧州委員会の新体制樹立に際し、続投するフォンデアライエン委員長が、意見の合わないフランスのブルトン委員を追放してから、その低下ぶりが顕著である。
独仏両国の影響力低下は、ブレグジット後のEUの結束と再構築に痛手だ。ロシアのウクライナ侵攻とハマス・イスラエル戦争の長期化、米大統領選の動向に、EUが適切に対処できなくなる懸念が高まっている。