ローマ・カトリック教会総本山バチカンで2日から約4週間、教会の刷新、改革について話し合う世界代表司教会議(シノドス)第16回通常総会が行われている。参加者368人のうち272人が司教、96人が非司教で、40人は聖職者でも修道者でもない。修道女を含めると、約7分の1に当たる53人が女性で、バチカンニュースによると、「これは教会史上初のことだ」という。(ウィーン小川 敏)
チェコの著名な宗教社会学者トマーシュ・ハリーフ氏は「教会は深刻な病気だ」と語った。教会が病んでいると指摘されたのは今回が初めてではない。長い教会の歴史の中でさまざまな教会刷新があった。20世紀のカトリック教会最大の改革運動は第2バチカン公会議(1962~65年)だ。同会議を提唱したヨハネ23世(在位58~63年)は会議開催1カ月前、「世界は解決策を切望しているさまざまな問題を抱えている。今、世界と対話を始めよう」と呼び掛けた。
それから60年余りが経過した。カトリック教会では聖職者の未成年者への性的虐待問題、財政不正問題などが次々と明らかになり、教会への信頼は地に落ちた。教会から背を向ける信者が年々増加。それを受けて第266代教皇のフランシスコ教皇が2019年6月、教会の刷新活動(シノドスの道)を提唱した。
教皇に教会刷新を強いた直接の契機は、聖職者の未成年者への性的虐待問題の発覚だ。その問題を隠蔽(いんぺい)してきた教会の責任だ。
教皇の教会改革の呼び掛けを受けてドイツのカトリック教会が早速、教会改革案を提示したが、ここで問題が生じた。ドイツのカトリック教会司教会議(議長ゲオルク・ベッツィング司教)で推進中の教会刷新策に対し、「行き過ぎ」という声が教会内外で聞こえてきたのだ。
バチカン教皇庁は22年7月21日、ドイツ教会の改革案に対し、「司教と信者に新しい形態の統治と教義と道徳の方向性を導入し、それを受け入れるように強いることは許されない。普遍的な教会のシステムを一方的に変更することを意味し、脅威となる」として「ドイツ教会の行き過ぎ」に警告を発した。教皇自身も「ドイツには立派な福音教会(プロテスタント派教会=新教)が存在する。第2の福音教会はドイツでは要らないだろう」と述べ、刷新案に異議を唱えている。
ドイツ教会が提示した改革案は、①各国の教会の意向を重視し、一般信徒の意向を最大限に尊重する「非中央集権制」②聖職者の性犯罪を防止する一方、LGBTQ(性的少数者)を擁護し、同性愛者へ教会をオープンにする③女性信者を教会運営の指導部に参画させ、「女性聖職者」を認める④聖職者の独身制を見直し、既婚者の聖職者の道を開く―の4項目。
内容を見る限りでは、フランシスコ教皇でなくても、カトリック教会の「福音教会化」と揶揄されてもおかしくない内容だ。バチカンで「何のためのカトリック教会か」という疑問の声が出てくるのはうなずける。
カトリック教会の聖職者に、保守派と改革派がいることは周知の事実だ。どちらが主導権を握るかは、その時代のローマ教皇の意向に懸かっている。世界シノドスを提唱したフランシスコ教皇は南米出身らしく陽気で明るく、教会の刷新には積極的な発言を繰り返してきた。教皇就任11年目になるが、聖職者の独身制の廃止、女性聖職者の導入などでは依然何も変わっていない。教会の刷新では決して合格点が取れる成果ではない。世界シノドスの最終的成果を見ない限り何も言えないが、フランシスコ教皇がカトリック教会の歴史で「教会改革者」としてその名を残すかは今のところ分からない。