欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長が公表した2期目の新しい組織図は、6月に実施されたEU議会選の結果を反映し、右派が多数を占めた。委員らは今後、議会の厳しい審査を経て信認を得ることになるが、経済再生、環境対策を両輪に欧州市民の声をより反映した政策が求められる。(パリ安倍雅信)
9月17日に明らかにされた新しい欧州委員会の構成は委員長の権限や欧州内の加盟国間の勢力均衡の進化、さらに6月のEU議会選挙での右派の台頭を考慮したものだった。
委員長を含む委員27人のうち、最終的に女性は11人と少ない。フランスにとって、フォンデアライエン氏に個人的な敵意を露骨に示したブルトン委員(域内市場・サービス担当)が追放され、代わりにセジュルネ仏外相が委員会に送り込まれたのを除けば、人選に大きな混乱はなかった。
9月9日に発表されたドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁のEUの経済再生に関する報告書で、欧州の競争力向上のために、民間及び公共投資で年間8000億ユーロ(約127兆円)の追加投資が必要との見解が示された。選挙前にEU議会で設定された野心的な環境目標と社会的結束を維持しながら、ドラギ提案を達成する方向だ。
フォンデアライエン氏自身は独キリスト教民主党(CDU)出身で、委員会は右派が多数を占めており、そのうち13人は中道右派グループ・欧州人民党(EPP)出身者だ。
EU議会選を受け、7月8日に欧州議会の新たな政党グループ、欧州の愛国者(PfE)の創設が発表された。欧州議会(定員720)によると、PfEには12加盟国の13政党が参加、84議席を占めた。結果的に中道の欧州刷新(RN)の76議席と一部極右を含む右派の欧州保守改革(ECR)の78議席を抜き、第3勢力となった。
PfEは、現在、EU議長国を務めるハンガリーのオルバン首相が、チェコのバビシュ前首相とオーストリアのキックル元内相という右派政党出身者と立ち上げた新会派だ。たびたび、欧州委員会が打ち出す政策に抵抗しており、極右伸長を食い止めるため、欧州委員会新体制からPfEは排除されている。
委員会の新体制は執行副委員長(EVP)と委員の2層構造で、EVPはEU政府の主要閣僚に当たる。2人の中道左派、2人の中道派と保守派、2人の欧州懐疑派で構成され、4人の女性を含む6人のEVPが執行部を主導する。
サンチェス首相に近いスペインのテレサ・リベラ氏(欧州社会民主進歩同盟=S&D)は、エネルギー転換を担当するEVPに指名された。ルーマニアのロクサナ・ミンザツ氏(S&D)は、社会問題、訓練、危機管理を担当、エストニアのカヤ・カラス氏(中道、RN)が外交安全保障上級代表(外相)となる。
委員候補に指名された26人は、彼らが新たな職務に就く前にEUで唯一直接選挙で選ばれる機関である欧州議会議員らによる公開の公聴会で厳しい審査を受ける。過去の発言、個人的な論争、対立する政治的立場、利害の対立、能力の欠如などが正式な任命の決め手となる。
英国のEU離脱や、ウクライナ紛争で欧州内の東西対立が表面化し、EU存続を脅かす課題が噴出する中、EU議会の公聴会は厳しいものになることが予想される。特に右傾化する委員会を警戒する中道左派勢力は厳しい質問を浴びせる可能もあり、最後まで予断を許さない。